いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

お口の中にバイキンマン

最近、娘がお風呂のお湯を飲もうとするので困っている。

 

いくら注意してもなかなか止めてくれない。まぁ、飲むというよりは口に含み吐き出し遊んでいるだけなのだが、衛生上よくないことには変わりないだろう。

 

うがいを覚えて以来はじまったことなので、おそらく口から水を吐き出すのが今面白いのだと思う。

 

手を焼く私たちは、バイキンマンを使ってなんとかやめさせられないかと、このところ試みている。

 

昨日も、家族三人でお風呂に入っている時、娘がお湯を口に含んだ。そしていたずらっ子のような顔を浮かべながら、愉快そうにお湯を吐き出した。

 

それを見た私と妻は、大げさに驚いた声をあげた。そして苦虫を噛みつぶしたような顔を娘へと向けながら、こんなことを言った。

 

「うわぁ、お風呂の水汚いよ。お口にバイキンマン入ったよ!」

 

そう言うと、娘は急に不安げな顔になった。それを見て私たちは更に畳みかける。

 

「お口開けてごらん、あ、やっぱりお口の中にバイキンマンいるよ!うわぁ、こわ~い。」

 

娘は交互に私と妻の顔を見つめ、不安そうな視線を送ってくる。それでも私たちは表情を崩さない。

 

ついに娘は涙を流し、わんわんと泣きだしてしまった。

 

妻はそんな娘を優しく抱き寄せる。それでも娘は大きな声をあげながら、懺悔の涙を流し続けている。

 

十分に後悔しているようだと判断した私たちは、ここから娘に救いの手を差し伸べる。

 

「じゃあ、バイキンマンをやっつけるために、お口にアンパーンチしよっか?」

 

泣きながら頷く娘。彼女は私たちに言われるがままに大きな口を開ける。

 

早くなんとかしてくれ。そんな藁にもすがるような表情を娘は浮かべていた。

 

「いくよ?アンパーンチ!」

 

そう言いながら拳を娘の口に優しく当てる。

 

娘も泣きながら「あんあーんち」と必死になって声をあげていた。そして言い終わると尚一層わんわんと泣き崩れた。

 

「じゃあ、もう一回お口の中見せて?あ、バイキンマンいなくなってるよ!よかったねぇ。」

 

それを聞くと娘は、相変わらず大粒の涙を流しながらも、「ほんと?」というような安堵の表情を浮かべた。

 

「やったぁ!」

 

私と妻は大げさに喜んで見せる。

 

「やっだぁ!」

 

私たちの真似をして娘も喜びをあらわにした。涙を流しながら喜ぶ娘の姿がおかしかった。私たちはそんな娘と何度もハイタッチをして喜んでみせた。

 

「お風呂の水飲んだら、またバイキンマン入るからね。もう飲んじゃダメだよ?」

 

「うんっ」

 

涙はすっかり引き、ご機嫌を取り戻した娘に向かって、私たちは改めて言う。

 

物わかり良く返事をした娘だったが、結局数分後には再び同じことを繰り返し、二度目のバイキンマン退治をすることになった。

 

相変わらず泣きわめいていたので、少なからず恐怖を感じているはずだが、果たして躾としての効果はあるのだろうか。私たちの模索は続く。

 

次は誰に登場してもらおうかな。当たり前だけど子供向けのキャラクターに悪役って少ないよな。

 

そんなことを改めて思い知りながら、頭を悩ませている今日この頃。