いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

苦役列車

昨日は、映画『苦役列車』を見た。

 

さっそく、しばしのひとり暮らしを満喫してみようと試みたのだ。
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とはいうものの、最初は暇つぶしのつもりで見始めた。夕食のお共に、適当に流し見をするくらいに思っていた。

 

しかし、いつのまにか物語に引き込まれ、結局最後まで一気に鑑賞してしまった。

 

この映画は、前々から見たいと思っていたものだった。しかし、もとはといえば映画というよりも、芥川賞を受賞した原作小説の方に興味があった。

 

受賞式の際、作者、西村賢太の強烈なキャラクターが話題となり、一時メディアでも多数取り上げられていたが、なにを隠そう私も、それをきっかけに本作に興味をもった一人だった。

 

本屋で平積みされている書籍を手に取り、冒頭の文章を立ち読みした。あくの強い人間性が染み出たクセのある文体に、妙に心惹かれたのを記憶している。

 

文庫本が出たら買おう。当時はそう思っていた。しかし気づけば今の今まで、読む機会を逸し続けてきたのである。

 

今回Amazonプライムでこの映画を見つけたとき、そのことを思い出した。そして、とりあえず映画から観るのもありか、と軽い気持ちで見始めたのである。

 

森山未來が演じる主人公の青年は、どうしようもない男だ。

 

その日暮らしの自堕落な生活を送り、お金、仕事、人間関係、そのすべてがだらしない。救いようのないロクデナシだ。

 

しかし、そんな彼にも幸運が訪れる。良識のある気の合う友人と意中の女性に出会い、しばし青春を謳歌するような日々を過ごすのだ。

 

しかし結局は、彼の自業自得により、その大切な二人を失ってしまう。

 

そのことで自暴自棄になった彼は、更なる深みへとはまりゆくように、その投げやりな生き方に拍車をかけていくのであった。

 

なんとも文学小説らしい物語だ。大きなオチもないので、観る人によっては拍子抜けをするのかもしれない。

 

しかし私はこの作品を観て、妙に心震わされてしまった。

 

自分とは正反対とも言える主人公。不安定な生活、不満と劣等感に満ちた思考回路、短絡的で計画性のない言動、そのすべてが自分とはかけ離れて感じる。

 

しかし、それ故なのか、彼の生き方から目が離せられなくなっていくのだ。

 

また、そんな彼の唯一の楽しみが『本を読むこと』であり、漠然とだが「何かを書きたい」という衝動を抱いているところには、その感情に共感する者のひとりとして、親しみを感じられた。

 

ラストシーン。めちゃくちゃな生活の中で、それでも書きたい衝動に突き動かされ、原稿用紙へと向かい、鉛筆で文章を書き殴る彼の後ろ姿には、心動かされるものがあった。

 

この物語は、作者である西村賢太の自伝的な小説らしい。つまりこの主人公はその後、芥川賞を受賞することになるのだ。

 

私はこの作品を通じて、本物の“物書き”というのは、きっとこういう人たちのことを言うのだろうなと、しみじみと思った。

 

どんな環境にあっても、書かずにはいられない。きっとそんな人だけが、人の心を揺さぶり得るものを書くことができるのであろう。

 

ちなみに、主人公の森山未來はもちろん、主要の登場人物たち(高良健吾前田敦子など)の演技はどれも素晴らしく思えた。

 

きっと観る人は選ぶのだろうが(おそらくうちの妻はあまり好きではないだろう)、好きな人にとっては、とても愛着を覚える映画なのではないだろうか。

 

少なくとも私は、この映画を観てとても好きになった。順番が逆になってしまったが、いつか原作の方も読んでみたいと思う。