いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

黒猫をめぐる冒険

夕方、久しぶりに近くの公園に娘を連れて行った。

 

勝手知る公園だけに、娘も自分の庭のような顔をして園内を闊歩していた。

 

置かれている遊具をまずは一通り遊んだのだが、しばらく来ないうちに、娘もできることが増えたものだ。

 

アスレチックは、低い段であればもはや私の補助はいらない。すいすいと自らで階段を登り、揺れる吊り橋や、縄はしごの上を慎重に歩き渡り、すべり台を滑って帰ってこられる。

 

吊り橋や縄はしごでは、足を踏み外すこともあるのだが、そのスリルすらも楽しんでいるような(まさにアスレチックの醍醐味だ)、そんな余裕を感じられた。

 

とは言え、今のところは万が一に備えて、私が手で支えられる準備をしながら付いて回っている。しかし、手放しで見守れるようになる日も、そう遠くはないのかもしれない。

 

また、ブランコにしてもそうだった。以前は私が座り、その上に娘を座らせて一緒になって漕いでいたのに、今ではひとりで座りたがる。

 

更には手での補助も嫌がり、自分ひとりでブランコに座りたいと主張するのだ。隣同士に並ぶブランコを指さし、こっちは私、こっちはパパと指示をしてくる。

 

私はその指示に従い、娘をしっかり座らせ軽く揺らしてあげた後に、自分も隣のブランコに座り同じテンポで漕ぐ。ふたりでお互い見つめ合いながらブランコで揺れていると、娘はとても嬉しそうに笑っていた。

 

さて、そのように公園では長いこと遊んでいたのだが(幸い天気は曇りでそこまで暑くなかった)、園内では黒猫を何度となく見かけた。

 

黒猫は基本的に2匹で行動しており、首輪もなく、その野性味あふれる所作から、最近では珍しい野良猫のように見受けられた。

 

「あ、にゃんにゃん」

 

娘はそれを見つけるたび、駆け足で、しかしどこか緊張感を漂わせながら、黒猫の方へと近づいていった。

 

黒猫たちはそんな娘を真っ直ぐに見つめ、ある一定の距離に近づくと、尻尾を翻しバラバラに散って逃げた。

 

しかししばらくすると、また同じところに姿を現すのだ。そしてふたたび娘の視界に入り、娘の興味を引く。

 

そんなふうに何度か黒猫との追いかけっこを繰り返した。そしてそのうちの一度においては、なかなかの長期戦を繰り広げた。

 

そのとき娘が近づいていくと、一匹は園外の草むらに逃げたのだが、もう一匹は園内の林の方へと逃げた。

 

娘はそれを「にゃんにゃん、にゃんにゃん」と言い追いかけた。雑草も生い茂り、木々の根も土から盛り上がった歩きづらい地面の上を、娘は適宜足下も確認しながら、それでもまっすぐに猫を見つめ懸命に走った。

 

しかし脚力は猫が勝る。黒猫は飛ぶように林を突っ切り、園外のマンションの塀によじ登り、その上からこちらを見つめていた。

 

娘はその塀の前までたどり着くと、上から見下ろす黒猫と対峙した。私は一応猫が飛びかかってくることも想定し、娘を抱きかかえた。しかし見る限りでは、相手側に攻撃の意思はなさそうだった。

 

「にゃんにゃん・・・」娘は自分から逃げる黒猫を残念そうに見つめていた。ただ仲良く遊びたいだけなのに、娘の表情からはそのような訴えが聞こえてくるかのようだった。

 

しばらくすると黒猫はぷいっと踵を返し、塀の向こうへと姿を消した。私は肩を落とす娘を慰めながら、公園へと戻っていった。

 

娘がこの体験から何を得たのかはわからない。しかし私は、この夏の冒険のひとつとして、ここにしっかりと書き記しておきたいと思う。