吉田修一の『愛に乱暴』を読了した。
吉田修一は『悪人』『怒り』など、これまでに数多くの作品が映像化されている。今や人気作家のひとりと言えるだろう。
また彼はANAの機内誌にて旅に纏わるエッセイを長年連載している。実は私も大学生の頃、そこで吉田修一の文章と出会った。
そしてその出会い以来、私は彼の作品のそのほとんどを読んできた。
彼は芥川賞と山本周五郎賞を同年(2002年)に受賞している。純文学と大衆小説の文学賞を合わせて受賞したことは、当時とても話題になったものだ。
そのことからも分かるとおり、彼は「文章も上手く」、「物語も(大衆向けに)面白い」という希有な作家なのだ。そして私はどちらかというと彼のことを、「大衆小説が書ける純文学作家」としてこれまでは捉えていた。
しかし今回、本作で久しぶりに吉田修一作品を読んでみて、その印象が少し変わった。
彼が様々なジャンルの小説に挑戦してきた影響もあるのだろうし、私が純文学作品に染まりすぎた理由もあるのだろう。彼のことが「純文学寄りの文章が書ける大衆小説作家」という印象に変わった。
売れっ子作家であるには最良のバランスではないだろうか。ただ私の好みからは少し外れてきたな、というのが率直な印象だった。しかし、最後まで読ませる力は相変わらずで、好きな作家であることに変わりはない。
さて余談が過ぎたが、本作について語ろう。一言で言うと、とても楽しかった。
とにかく先が気になり、ページをめくる手が止まらなくなる。こんなにのめり込んで一気に読み進めたのは久しぶりだった。
本書では、不倫により壊れゆく家庭が妻目線により描かれていく。構成としては各章、①不倫をしている側の日記、②主人公(妻)目線での物語進行、③不倫をされている側の日記、という形をとっている。
実はこの構成に、小説ならではの叙述トリックが隠されており、私もまんまと騙されてしまった。
文庫本で言えば下巻の中盤あたりにそのことが種明かしされ、思わずハッとさせられてしまう。私はそのあまりの興奮に、帰ってからすぐにそのことを妻に話してしまったくらいだ。
それ以降はもう読む手が止まらなくなってしまう。そして読み終わったら、また最初から読み直したくなってしまうのだ。
最近、私は文学作品ばかり読んでいたので、久しぶりにミステリ系の本(この本はミステリではないのだが)を読む楽しさを思い出させてもらった。
私はやっぱり文学小説が好きだけど、こんな本もたまには読みたいなと思った。吉田修一作品は、また新作が文庫化されたら読んでみよう。