いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

魅惑の彼女

筋トレ終わりに横になっていると、娘が近づいてきて隣に寝転んだ。

 

何かな?と思っていると、微笑みを浮かべて、どんどん私の方に顔を近づけてくる。

 

そして相変わらず微笑を携えたまま、まっすぐに私の目をみつめてくるのだった。顔の距離はもう吐息がかかるほどに近い。

 

正直なところ、私は少しドキドキしてしまった。

 

いったい娘は何をしようとしているんだ?将来に向け男をオトす練習か?それともパパを誘惑しているのか?

 

そんなことを考えながらも、胸にはほのかに淡い気持ちが芽生えてくる。

 

娘の瞳はまっすぐ私に向けられていた。その表情からは、何かを期待するような、わくわくとした心境が感じ取れる。

 

目を大きく見開き、あまりにまっすぐと見つめてくるので、その可愛らしい瞳の中に吸い込まれてしまいそうだった。

 

「あ、○○ちゃん!」

 

出し抜けにそう言うと、娘は幼げな笑い声をあげた。そして私の目を指さすと、もう一度自分の名を口にしたのである。

 

そう、娘は私の瞳に映る自分の姿を見ていたのだ。パパの目の中に私がいる、おもしろーい。簡単に言えば、そういうことだろう。

 

そのことを伝えようと、娘は何度も私の目を指さし、直接触ろうとしてきた。私は瞼を閉じそれを間一髪で防ぐと、「そうだね、パパの目の中に○○ちゃんいるね」と彼女に同調した。

 

私に思いが伝わったことを確認すると、娘はむくりと立ち上がり、その場でぴょんぴょんと跳ね、別のオモチャの方へと駆けていった。

 

取り残された私は、しばらくのあいだ動けなかった。

 

胸の中で宙に浮いた淡い気持ちの後処理に困ったからだ。何を期待していたわけでもないのに、なんだか裏切られたような、そんな言葉にはできぬ喪失感があった。

 

なんて男泣かせな罪な女。

 

果たして将来、何人が彼女の犠牲になるのだろうか。私は思わず未来へと思いを馳せてしまった。

 

ただ、これだけはしっかりと覚えておこう。

 

その最初の被害者になったのは、この私だ。