いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

【愛読書】STONER

ジョン・ウィリアムズ著『STONER』を再読した。
f:id:pto6:20190207082057j:image
折に触れては読み返したくなる大切な小説だ。今回も、本棚に改めて並べたことがきっかけで読み返した。

 

この物語は、平凡な男ストーナーの生涯を描いている。彼は農場で生まれ、大学に行き、そこで文学に目覚め、教師になる。助教授より上の地位には昇らず、世に出した著書も1冊のみだった。大した成功とは言えまい。

 

また意中の相手と結婚はできたが、それも上手くはいかなかった。ひとり娘とは幼い期間においては親密な関係を築きもしたが、それも不安定な妻の介入もあり、歳を重ねる毎に崩れていった。

 

中年に差し掛かり、若い講師との情事に救いを見出すも、つかのまでの終焉を迎えてしまう。権力者との確執により学内人事では冷遇され、身を粉にして教壇に立ち続けるも、遂には癌に蝕まれ、その生涯に幕を降ろす。

 

あらすじだけを読むと、なぜこのような地味な男の生涯を描いて面白い作品になろうか、と思うかもしれない。しかし、これが読み出すと止まらなくなるほどに味わい深く、世界中の読者から称賛を受けているのだ。

 

物語は終始、静謐な筆致で、淡々と語られていく。全編を通して“悲しみ”が横たわっており、時に胸を締め付けられる思いになる。しかし、そこには確かな暖かみもあって、人間の幸福とは何か、そんなことを読者に自然と考えさせるような不思議な力を備えている。

 

また翻訳も非常に秀逸だ。現にこの作品は日本翻訳大賞も受賞している。実はここにも心揺さぶられるエピソードがあって、翻訳をした東江一紀は主人公と同じく癌になり、その闘病中にこの小説を翻訳されたとのことだ。

 

そして最後の最後まで翻訳を続けられ、ラスト1ページを残してこの世を去った。その生涯最後となる篤き翻訳作業は愛弟子の手へと引き継がれ、完成に至ったのが本作なのである。

 

私はこの小説を読むたびに、それぞれの歩む人生というのは、かくも美しいものなのかと感動を覚えてしまう。どんなに悲しげに思われる人生の中にも、小さな幸福はいくらだって見いだすことができるのだ。

 

そして私も自身の人生において、これだけはやったぞ、という強い何かを感じられるよう、精一杯に生きていこうと思うのであった。きっとそれだけあれば、人生というのは輝かしいものになるに違いない。

 

これからも私は、この本を何度も読み返すことだろう。そのため、いつでも手に取りページを捲れるよう、本棚の一番良いところに並べておくつもりだ。