いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ヴァンクリーフ&アーペル

昨日は家族で梅田に出かけた。

 

妻のショッピングと娘を遊ばせるのが目的だ。結局、夕食までをそこで過ごしたのだが、その途中、『ヴァンクリーフ&アーペル』のブティックに立ち寄っていた。

 

結婚指輪の洗浄をするためだ。同ブランドのアイテムであれば、購入した店舗以外でもこのサービスが無料で受けられる。他のハイブランドがどうなのかは知らないが、とてもありがたいサービスだと思っている。

 

私たちは指輪を綺麗にすることとは別に、もうひとつ狙いをもっていた。チョコレートだ。ヴァンクリでは、お店を訪れ席へと通されると、必ずチョコとドリンクがもてなされる。そのチョコが上品で、まぁ美味しいのだ。

 

我々はショッピングの歩き疲れから、幾ばくかの糖分を欲していた。間が良いことに娘も私に抱かれながら昼寝に入っていたし、店を訪れる条件は揃っていた。

 

阪急百貨店の中にある店舗に入った。店員のひとりをつかまえて洗浄したい旨を伝える。店員はぱっと笑顔になり、恭しく指輪が受け取られた。私たちは席へと通され、しばらくすると、私たちの前には小皿に乗ったチョコレートとお冷やが丁重に並べられていた。

 

店員が立ち去ると、私はさっそく包みをあけてチョコを美味しく頂いた。妻はしばし店内のアイテムを見て回った後、「思いもよらず」という顔でチョコを見つけ、遠慮がちに手をつけていた。芸が細かいやつなのだ。


チョコを食べ終え、手持ち無沙汰になった私は、訳知り顔を浮かべ店内を見回し、近くの店員に向けて手を上げた。近づいてきた彼女にカタログを見せて欲しいと頼む。彼女はすぐに上品なカタログを持ってきてくれた。

 

私は「どれどれ」という顔でカタログをパラパラ捲った。「ほぅ、今回の新作もいいじゃないか」というようにたまに手を止め、しばしそこに添えられた美辞麗句に視線を這わせた。当然ながら何も買うつもりはない。ただ、その雰囲気を醸し出すことを楽しんでいるのだ。

 

そんな遊びをしているうちに、指輪の洗浄が終わった。私たちの前に綺麗になった指輪が差し出される。洗浄が久しぶりだったからか、予想以上にピカピカになったように感じた。買ったばかり、とまでは言わないが、本来の輝きを思い出すには十分な光を放っていた。

 

私たちは満足感に包まれながら指輪を指にはめた。目的は達成されたので、そのまま帰ってもよかったのだが、最後に展示されているアイテムたちを見て回ることにした。興味ありげな顔で覗き込んでいると、男性スタッフが上品な笑顔を携え、私たちにすり寄ってきた。

 

すぐに流暢な説明が開始される。こちらの1の質問に対し、2も3も返ってくるような調子で、横文字の発音はやけによかった。ただそれでも嫌な感じは受けず、私たちはしばし彼とのハイクラスな会話を楽しんだ。ついていけない話には「なるほど」と言って、微笑を浮かべた。

 

話のはずみで、妻はネックレスの試着までした。元々買うつもりがないことは妻も十分承知していたはずだが、妻は鏡の前でなんども自分の姿を確認しては、恍惚の表情を浮かべていた。

 

男性スタッフは「こんな上物が100万円程なのでお買い得ですよ」と涼しい顔で説明を続けていた。いつの間にか、妻もそんなスタッフの後ろ側につき、私の方を笑顔で見つめている。少しだけゾッとさせられてしまった。

 

結局は「まぁ買うとしたら結婚10周年のお祝いとしてだね」と妻と芝居をうち、空気を壊さないままにその場から離れた。男性定員は「その際は是非に」といって名刺を渡し、丁寧に店の外までエスコートしてくれた。

 

数十分足らずの滞在だったが、しばしエレガントな空気を味わうことができた。日頃はブランドなどには縁のない私たちだが、結婚指輪に選んだくらいなので、ヴァンクリに対しては少しばかりの思い入れを持っている。

 

輝く指輪を見つめながら、妻がこんなことを言った。

 

「ヴァンクリーフ&アーペルって創業者夫婦の名前らしいよ。なんだか、そういうところも含めて素敵だよね」

 

またひとつ、このブランドが好きになれた気がした。