いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ろくろ首

ろくろ首という妖怪をご存知だろうか。

 

あの首の長いポピュラーな妖怪だ。巷にも溢れている存在だが、娘は昨日、それをはじめてテレビの中で見た。

 

『お母さんといっしょ』の歌の一つに、妖怪にまつわる曲があったのだ。うたのおねえさんがろくろ首に扮しており、歌いながらに首がとても長かった。

 

娘は画面に映ったおねえさんの姿に、一瞬ギョッとして身体を強張らせた。そして自分の見間違いじゃないことを確認すると、一目散にリビングから逃げ出した。

 

「こわい・・・」

 

なんてかわいい娘だ。ただ首が蛇のように長くて、とぐろを巻いているだけだというのに。

 

・・・たしかに怖いな。あまりにポピュラー過ぎて感覚が麻痺していたが、これは娘の反応の方が正常だ。しかも、いつも見慣れているおねえさんの首が急に伸びたのだ。恐怖を感じないわけがないだろう。

 

そんな状態なのに、笑顔で歌い続けているおねえさんもおねえさんだ。どう考えたって理性をなくしてしまっている。自分が妖怪になったことすら気づいていないのだろう。そう思うと、尚更おっかなく見えてきた。

 

結局、娘はその曲が終わるまで、リビングには戻ってこなかった。次の曲に移ると、私は娘に声をかけ、安心させてから呼び寄せた。それが昨日の朝のことである。

 

そして昨夜の寝る前、娘はふたたび思い出したかのように、そのときのことを呟きはじめた。

 

「くびが・・・こわかったの」

 

なんて繊細な娘だ。おねえさんも、その曲以降ではすっかり首が元どおりに戻っていたというのに。

 

・・・たしかに恐ろしいな。いつもは普通なのにある時だけ首が伸びるなんて。そうだとすれば、普段の生活の中でろくろ首とそれ以外の人を見分けるのは難しい。

 

もしかしたら目の前にいるママも、次の瞬間には首が伸びて、とぐろを巻いているかもしれないのだ。

 

娘の反応というのは新鮮だ。そして大抵の場合、それは真理を突いている。面白いなぁと、改めて思った。

 

娘を怖がらせたらいけないので、私が首を伸ばすのは、彼女のいない暗い夜道だけにしよう、そう心に決めた。