いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

わずか15分間

残業して帰ると、娘とはほとんど顔を合わせられない。

 

昨日も家に帰り着くと、少しばかりの会話を交わしただけで、寝かしつけをする9時がやって来て、娘は妻と共に寝室へと入っていった。

 

しかし、そのわずか15分たらずの時間でも、娘は私に鮮明な印象を残していってくれるのであった。

 

洗面所で髪を乾かしていた娘は、帰ってきた私が横に立つと、嬉しそうに意味もなくベタベタと触ってきた。そして自分のパジャマを指さして、にぃっと笑う。なんだろうと思って観察すると、どうやら長袖のパジャマに衣替えしたみたいだ。「あたらしいぱじゃまなの」と、去年着ていたのも忘れて、嬉しそうに教えてくれた。

 

その後、娘の歯磨きをすませると、私は食卓でひとり夕食を食べ始めた。そこに娘がてくてくとやってきて、私の横にちょこんと座る。大好きなチクワを見つけて私の皿から取ろうとするので、もう歯磨きしたからダメだよ、といってそれを制する。

 

娘は素直に諦めて「そのちくわ、ままがつくったんだー」と得意げになって教えてくれる。私はそうなんだ、どうりで美味しいわけだと驚いて見せる。それを聞いた娘は更に得意そうに笑って、大きく頷いていた。

 

そのとき、急に“ぶっ”という音がした。

 

すると娘は「ぶっしちゃった」と声を上げ、屈託のない笑顔を向けてきた。更にまた“ぷっ”という音がすると「またぶっしちゃった、ちっちゃいの、ごめん」と人差し指と親指でその“ちっちゃさ”をアピールしながら、清々しいまでの笑顔で謝罪してくるのであった。

 

そんなことをしているうちに、時刻は9時になった。妻は娘に最後のお茶を飲ませ、寝室に向かうよう言う。私はおやすみを言い、彼女を笑顔で見送った。すると娘は一瞬寂しそうな顔を浮かべた後に、思い直したような表情をつくり、私に向かって言うのであった。

 

「ごはんぜんぶたべてぇ、おふろはいってからぁ、ぱぱもきてね!」

 

私はその物わかりのよさと、適切な指示に小さな感動を覚えた。まるで弟を指導するお姉ちゃんのようだ。そして忘れていたとばかりに、慌ててこうも付け足す。

 

「おちゃものむんだよぉ!」

 

娘に早寝の習慣をつけさせてから、平日夜に娘と過ごす時間は減ってしまった。でもその分、朝は早起きで毎日見送りをしてくれるし、夜はこのように短いながらもささやかなふれあいを楽しむことができる。

 

ここ最近残業が多くて申し訳ないけれど、あと2週間弱でそれも終わる見込みだ。娘の笑顔を糧に頑張ろう。