いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

正義のヒーロー/悪の黒幕

娘は怯えていた。怪獣に扮した私が近くに迫っている。

 

彼女はガタガタと震え、部屋の隅に身を潜ませていた。私はその様子を横目に映しながらも、明後日の方向を向き、首を振って娘を探す演技を続けた。それを見た娘は安心したのかクスクスと小さな笑い声をあげた。

 

そこで私は物語に展開をつくることにした。ソファに座る妻をめがけて、のっしのっしと歩を進める。そしてそのむき出しの二の腕に、勢いよく噛みついた。

 

「きゃ~○○ちゃん助けて~!」

 

ノリの良い妻は、私に腕を食べられながらに助けを呼んだ。急にターゲットを変えた私に唖然としながら、娘は大きな口を開けこちらを見つめていた。

 

「やめるんだー!」

 

そこで娘がキッと睨む顔で前に出た。台詞といい、その勇ましい顔は、アンパンマンが娘に乗り移ったかのようだ。一重の娘が切るメンチはなかなかの強面で、街中でその顔をヤンキーに向けたなら絡まれてしまいそうだ。

 

「だぁ~!」

 

娘は拳を振りかざし、ママを襲う悪者に正義の鉄拳を喰らわせた。その拳は私の顎にヒットし、私は半分本当に痛がりながらも、ばいばいきーんと言って、宇宙の彼方まで飛んでいった。怪獣がいつの間にかバイキンマンになっているが、そんなことはこの際どうでもよい。

 

「○○ちゃん、ありがとう、こわかったよー」

「まま、○○ちゃん、たすけたよー!」

 

普段怖がりの娘も、ママや大好きな人形たちが襲われると、このように急に勇ましくなる。そんな正義のヒーローのような娘を見るのが、私はとても好きなのだ。将来も、大切な友達を守ってあげられるような、そんな勇敢で優しい子供になってほしいな。

 

そんなことを思いながら、私は宇宙の彼方から帰還した。ソファに座り、一連のドタバタ劇で負った傷を癒やす。そこにトコトコと娘が近寄ってきた。

 

「ぱぱ、ままにガブッてして、たすけるから!」

 

正義のヒーローだった娘は、実は悪の黒幕だった。将来は大切な友達に、そんなことしちゃダメだからね。