レイモンド・カーヴァー『ファイアズ(炎)』を読了。
カーヴァーを読むのはこれで3作目となるのだが、実に数年ぶりのことだ。この前ヘミングウェイ作品を読んだときに、私はカーヴァーの文章が頭に浮かんだ。シンプルな言葉選びが、彼の文章を彷彿とさせたのだ。
実際はヘミングウェイに影響を受けたのがカーヴァーなのだが、私が出会った順番が逆であったのだから仕方ない。なんにせよ、ヘミングウェイの良さを体感した上で、改めてカーヴァー作品を読んでみたくなった。
まさに期待していた通りであった。以前と比べ格段に、カーヴァー作品の良さを感じられるようになっていたのだ。淡泊な文章でありふれた日常が切り取られているのだが、その行間には人々のリアルな息づかいが感じられ、ときにハッとさせられてしまうのだった。
短篇を読んでいて、なんども「うまいなあ」と感心させられた。描かれる情景やアイテム、エピソードたちが主題と無理なく溶け合って、物語でしか得られない心の揺さぶりを、読み手にそっと与えてくれるのだ。
この本は、カーヴァー自身が選出した「エッセイ」、「詩」、「短篇」がバランスよく収録された作品集となっている。彼のエッセイと詩は、今作で初めて読んだ。
エッセイはとても素晴らしく、その文章力と構成力の高さを再認識させられた。ただ詩に関して言えば、私の理解が追いつかなかった。そもそも詩を味わえるだけの素養が、私にはまだ具わっていないのだろう。
ただやはり、最も食い入るように読んだのは、最後に収録されていた7つの短篇小説であった。さすがは「短篇の名手」と呼ばれているだけのことはある。どれも味わい深く、読む喜びに満ちた作品ばかりであった。
中でも『隔たり』と『キャビン』という短篇が私の好みであった。どちらも小粒の物語なのだが、それゆえ与えられる情感の大きさに、感動を覚えてしまうのだった。
これを機に、持っているカーヴァー作品をすべて読み返してみることにした。おそらくは、以前よりも深く作品の良さを味わえるだろうと思っている。