いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

はなちてよ

娘に新しい口癖ができた。タイトルの言葉だ。ただ困ったことに、使い方を思いっきり間違えている。

 

なぜそのようになってしまったのかは不明だが、意味としては全く逆の使い方をするのだ。

 

例えば昨日、私がリビングのソファに座りテレビを見ていたとき。娘は寝室に私を連れて行き、そこで一緒に遊びたいと思ったのだろう。

 

「ぱぱ、あっち、いこ」

 

しかし見ていた番組が見逃せない場面だったので、私は「ちょっとまって、あとでね」と応えた。しかし娘は一向に引こうとしない。

 

「ぱぁぱぁ、あっち、いこぉ!」

 

そう言いながら娘は、なかなか抜けない“大きなカブ”を引っこ抜こうとするみたいに、私の腕を両手でつかみ、行きたい方向へと体重を掛けた。

 

そして例の言葉がここで登場する。彼女は私の腕を力強く握りしめたまま、こう言うのだった。

 

「は~な~ち~て~よ~」

 

私はこれをされるたび笑ってしまう。いやいや、それこっちのセリフだから、と。

 

おそらくその言葉が使われるシーンを娘はどこかで見たのだろう。しかし残念ながら、使う側を取り違えて覚えてしまったようだ。

 

その言葉がでると娘は意気地になるので、私は諦めて従う。もしかしたらそのことが、この言葉への娘の誤解をさらに深めているのかもしれない。

 

それにしても、もし外で娘にこんな使われ方をしたら堪ったもんじゃない。

 

見方によれば、幼い女の子を無理矢理ひっぱって連れて行こうとする悪党にも見られかねない。

 

そのため、なんとか使い方を正したいとは思うのだけど、今さら娘に言って聞かせるのは至難の業だ。

 

そして具合の悪いことに、これまた言い方が可愛いときてる。その言葉を聞きたいあまりに、ついついそれを誘発させようとする自分もいるのだ。

 

もし街中で「はなちてよ」と叫ぶ女の子がいたら、私の娘である可能性がある。

 

まずは掴んでいる側を確認してもらい、通報はその後にしていただきたい。