いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

夜行

森見登美彦の『夜行』を読了した。
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森見作品には主に、いわゆる「腐れ大学生もの」と「怪談もの」の2種類が存在するのだが、この作品はその後者に分類される作品である。

 

私はこれまでその両方の作品たちを読んできたが、読むたびにその文章の書き分けには感心させられる。

 

「腐れ大学生もの」は、とにかく饒舌で、頭でっかちで、暑苦しい文体が使われるのだが、今作のような「怪談もの」だと、とにかくシンプルで、スタイリッシュで、涼しげな文体が使われ、物語が描かれていくのだ。

 

今作も怖いもの見たさの精神でページを捲る手が止まらなくなった。挿入話としていくつかの奇妙な話がでてくるのだが、どれも「決定的となる怖い現象」が起きるというわけではなく、どこか薄気味悪い、背筋が少しだけ寒くなるような、そんなレベルで話が展開されていく。

 

森見登美彦10年目の集大成」と銘打たれて発売された本作だが、実際に読んでみると、そうようなキャッチコピーが採用された理由もわかるような気がした。

 

確かに「怪談もの」に分類される物語なのだが、そこには「腐れ大学生もの」の代表作たちで培ったエンタメの要素が、特に構成の面でしっかりと盛り込まれており、総合的な面白さをもった作品に仕上がっている。

 

それゆえ彼の「怪談もの」を読み慣れていない読者にも、最後まで読めば「森見小説を読んだ」という満足感が得られるのではないかと思った。直木賞本屋大賞にダブルノミネートしたというのも納得の面白さである。

 

今作を読んでまたひとつ、作者の器用さを垣間見れたような気持ちになった。次の作品の文庫化も待ち遠しい。