いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

お月様と隠れんぼ

ほら、お月様が隠れんぼしてるよ。

 

近所の店で夕食を食べた帰り道、娘が夜空を指さしそんなことを呟いた。彼女の指し示す夜空には、少し欠けた明るい月が浮かんでいた。

 

ほら。

 

娘がそう言うと、背の高いマンションの背後に隠れ、月が見えなくなった。私たちが歩いているからそうなるのだが、私に抱っこされ、自らでは動いていない娘の体感としては、月が動いて隠れたように見えるのだろう。

 

しばらく歩くと、月がふたたび姿を現した。

 

お月様みーつけた。娘は嬉しそうにはしゃいでいた。しかし更に歩いていると、また月が隠れてしまう。お月様は隠れんぼが大好きなんだね、と娘は無邪気に笑った。

 

パパもお月様すき?

 

娘にそう聞かれ、私は好きだよ、と応えた。娘はそれを聞き、喜んだ表情を浮かべた。そして自分もだーい好きなのだと、改めて私に笑顔で教えてくれた。

 

月との隠れんぼを繰り返すうちに、自宅のマンションに到着した。マンションの背は高く、近づき過ぎてもいるため、もう月の姿は見えなかった。

 

お月様帰っちゃったね、もうお家帰ろうか。

 

私は穏やかな気持ちになり、娘の頭を優しく撫でた。澄んだ夜風が心地よくて、いつまでも歩いていたい、そう思わせてくれる夜だった。