いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

リトル・シスター

レイモンド・チャンドラーの著『リトル・シスター』を読了した。村上春樹が翻訳したものだ。
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7冊あるチャンドラー作品のうちの5冊目にあたり、私にとっては6冊目となる彼の作品だ。ファンの間では低い評価を受けている作品で、作者であるチャンドラーも「唯一、積極的に嫌いなもの」と本作を語っている。

 

読んでみると、その理由が少しわかった。これまでに読んだ他の作品たちと比べても、物語は難解に入り組んでおり、展開についていくのに苦労する。またプロットにもいくつかの破綻が見受けられ、結末が明かされてもなんだかもやもやとしてしまった。

 

私にとってチャンドラーは最も好きな作家のひとりだが、彼の作品を薦める上でこの作品は選ばないかもしれない。まあ、他の作品が素晴らしいからなんだけれど。

 

とはいえ、この作品が読むに値しないか、と問われれば決してそうではないと答える。物語がどうであれ、チャンドラーの魅力はなによりその語り口、文章だ。

 

今作でも切れの良い描写やセリフ回しは健在で、散りばめられた洒落た比喩には胸をときめかされた。文章を読んでいてワクワクさせられるという点においては、チャンドラーの右に出る者はいないと私は思っている。

 

また主人公の私立探偵フィリップ・マーロウの魅力も相変わらずで、読んでいるだけで自分までタフになれたような気持ちにさせられる。憧れるほどに格好いいのだ。

 

そして訳者の村上も言うように、この作品には目に見える欠点も多いのだが、そのぶんどこか「愛おしさ」を感じさせる魅力も具わっている。その甘い匂いに誘われて、私はまたいつか読み返してしまうのだろう。

 

さて、チャンドラー作品はこれで7冊中6冊を読み終えた。最後の1冊は年明け1月に、文庫版がついに発売されるらしい。故人の作品はこれ以上増えないので、大切に読みたいところなのだが、本屋で平積みされているのを見ると、おそらくはすぐに買ってしまうのだろう。

 

なんにせよそれも読むのが楽しみだ。そして本棚に全7冊が並ぶ姿が拝めるのかと思うと、少しだけ感慨深い。