いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

極北

マーセル・セローの『極北』を読了した。
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村上春樹が翻訳を手掛けた本として存在は知っていたが、先日文庫化されたので手に取って読んでみた。

 

初めて読む作家ということで、期待と不安があったのだが、結論からいうと私には合わなかった。というか抱いていた期待を上回ってこなかった、という方が正しい。

 

『近未来小説』というジャンルも、今の私にはマッチしなかったのだろう。物語自体には入り込むことができたのだが、読んでいて心掴まれるような場面がなかった。

 

ただ、空想の世界を紙面上にリアルに立ち上げた作者の手腕には感心させられた。読んでいて具体的な映像が頭に浮かんできたのだ。これだけ重厚な世界観を描き切るというのは、力がなければできない作業だろうと思う。

 

なによりハードボイルドな女性主人公のキャラ立ちがとても良かった。勇敢で、逞しくて、生きていくことに達観している様には、いささか惹きつけられもした。

 

ただ、やはり分類をするなれば『文学』というよりも『エンタメ』に寄った作品のように感じた。それを求めている気分の時に読めばよかったのだが、今の私はあいにくそういう気分ではなかったのだ。

 

また、文章自体にもこれといって見所はなく、読みやすいが、個性的な煌めきは感じられなかった。たまに面白い比喩表現も見られたのだが、まるでどこかから借りてきたものであるかのように、そこの部分だけが浮いているようにさえ感じてしまった。

 

とまあ、言うのは簡単なのだが、作品に個性を実装するのはとても難しいことである。そういう意味では、文章だけで読み手を惹きつけられる作家というのは、やはり希有な存在なのだろう。これまでに数名出会えたというだけでも、幸運なことだと思わなければなるまい。

 

さて、久々に新しい作家に挑戦してみたが、今回は私的にはハズレだった。ただ『作家買い』をしてしまうほどに好きな作家たちをもっと増やしたいので、今後も気になる作家がいれば積極的に読んでみたいと思っている。

 

ちなみに本作も、私に合わなかったというだけで世界的には高く評価されている。目の肥えた村上が翻訳したいと思ったというだけで、この本の価値は明白だろう。