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文学パパが綴るかけがえのない日常

サンセット・パーク

ポール・オースターの『サンセット・パーク』を読了。
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先月末に発売されたオースターの新作をさっそく読み終えた。前作より更に進化しており、とても面白かった。

 

村上春樹ポール・オースターカズオ・イシグロレイモンド・チャンドラー。この4人が私の好きな作家四天王なのだが、そのうちの誰かの新しい作品を読むたびに「嗚呼、やっぱり貴方が一番だ」と思ってしまう。

 

フラットな状態ならその4人に順位付けなんて到底できないのだが、その人の作品を読んでいるときは、その作家が自分の一番になるのだ。その魔力を持っているかいないかが、本当に好きかどうかのバロメータになるだろう。はたして四天王に割って入る作家が今後いるのか。

 

さて、話を本書に戻す。オースターはこの前の作品『インヴィジブル』から、それまでと大きく作風を変えた。若者が物語の中心にふたたび据えられ、物語の描き方に実験的な要素がふんだんに盛り込まれるようになった。

 

今作でもその進化は推し進められている。章によって視点を置く人物が入れ替わり、物語が立体的に立ち上がっていく。ブルックリンを舞台にした、所謂『人間群像劇』なのだが、そこはオースター、一人ひとりの内省を深くまで掘り下げ、ありふれた群像劇にはしていない。

 

章を追うたびに、物語はどんどんと新しい展開を見せていく。一度読み出したら続きが気になって仕方ない。ハードカバーのため家でしか読めないので、毎晩数章ずつ読み進めていくのがここ1週間の贅沢な愉しみだった。

 

そして本作で改めて学んだことが、物語自体が物語を動かすわけではない、という小説を書く上での教訓だ。あくまで「命を持った」「魂を宿した」登場人物たちを書くことによって、物語が勝手に動きだすのである。

 

そのようなことは、小説家や漫画家たちが作品の生み出し方を語る際によく口にされることだが、オースターの今作を読んでいると、本当にそうなのだろうなと素直に信じることができるのであった。

 

読んでいて「この作品は初めてオースター作品を読む人にも薦めてよい一冊かも」と思えるほど、オースターの魅力が凝縮された、読みやすい作品のように感じた。

 

こうなると次作の翻訳化が早くも楽しみである。順番で言えば、次はついに大絶賛の大作『4321』だ。過去のオースター作品も読み返しながら、心して待とう。