いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

むかしむかし

おはなししようよ、と娘が言った。

 

灯りを消した寝室のベッドの上でだ。寝る前の遊びをひとしきり終えた後で、さらに寝るのを先延ばしにするために娘がよくとる常套手段だ。

 

私はいいよと応え、何の話をするかと訊ねた。すると娘はうーんと声をもらした後、パパが決めてと私に委ねてきた。仕方ないので、即興で昔話風の物語を披露した。

 

娘が魔法使いで、パパのピンチを救うという物語になった。「むかしむかしあるところに」からはじまり、「めでたしめでたし」で終わる類いの話である。娘は嬉しそうに聞き終えると、次は自分もやると言い出した。

 

「むかしむかしあるところに、ぱぱとままがいました」

 

私の真似をして物語を進めていく。その後「ぱぱ」と「まま」は公園に赴き、わるいやつに掴まってしまうという展開になった。どうやって話を畳むつもりなのか、私は興味津々になりながら娘の話に耳を傾けていた。

 

「おーしーまい」

 

思わず「えっー!」と声をあげてしまった。尻切れトンボも甚だしい。このままで終わってしまっては悲しいバッドエンドだ。私はあわてて話を引き継いだ。ふたたび魔法使いの娘を登場させ、わるものをやっつけ、ぱぱとままを牢屋から救い出してあげたのである。

 

その後も娘はいくつかの物語をつくり(どれも設定を変えていたので少し感心した)、私に聞かせてくれたのだが、どれも中途半端なところで「おしまい」を迎えるので、そのたびに笑ってしまった。

 

そういう意味では、娘はまだ物語の大原則である『起承転結』という概念を知らないわけだから、当然と言えば当然なのかもしれない。それに、誰かがいて、何かが起これば、それはもう立派な物語なのである。

 

とにかくそんな風に、娘から話を引き継ぎなんとかハッピーエンドにもっていくという役目を、昨晩の私は担っていた。それを何度繰り返した頃だろうか。気がつけば、どちらからともなくふたりは眠りに落ちていた。

 

めでたしめでたし。