いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

髭ダンディズム

髭面の男が鏡に映っている。私である。

 

醸し出される妖艶なる雰囲気にしばし目を奪われる。普段の聡明そうな文学顔とは異なり、無骨な男らしさが具わっている。まるでKing Gnuの常田大希ではないか。
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ドライヤーで髪を乾かすときが一番の見所だ。無造作な乱れ髪がミステリアスな雰囲気をいっそう引き立てる。

 

前髪が目に刺さらぬよう俯き気味で乾かすのだが、それにより顎が引かれ、シャープな顔立ちに見える。その輪郭を淡く縁取る顎髭が、魅力的な陰影をより際立たせてくれるのであった。

 

鏡に顔を近づけ、髭を些細に観察すると、集団行動に意を染めない毛先たちが思い思いの方向に顔を向けていた。まるでそれぞれが可愛げのない個性をもっているかのようだ。それでいい。それでこそ私の髭に相応しい。

 

そのように私は、一日の内に幾度も、鏡の前に立つたびにしげしげと自らの髭面を眺めた。指の腹で毛先を撫で回してみては、満足そうに頷いてもみたものだった。

 

しかし、家族には概ね不評である。

 

娘からは「これ痛いから嫌い」と早々に宣言され、露骨に嫌な顔を向けられる。妻に至ってはもっと手厳しい。

 

「なんか、スカスカだね」

 

髭が薄くて少ないことを指し、こんなにも屈辱的な表現を口にしたのである。まるで私の『ダンディズム』が不足しているかのような言われようだ。私は悔しさを押し殺しながら、髭に爪を突き立て、毛根に刺激を加えた。

 

確かにもう一週間も伸ばしているのに、なかなか生えそろってくれない。これが私の髭の限界点なのだろうか。思い描いていたよりも『濃さ』が足りていないのだ。

 

いや、しかし諦めまい。まだ連休は残っているのだ。ほら、常田だって歌詞の中でこんなことを言っているぞ。

 

朝目覚めたらどっかの誰かに
なってやしないかな
なれやしないよな
聞き流してくれ
# King Gnu『白日』