いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

黄昏時

向かいに見えるマンションの網戸たちが、風に吹かれて波打っている。斜めからの夕陽に照らされ、その波立つ陰影がくっきりと視認できた。

 

うごめく動きがまるで生き物のようで、私はぼんやりとした気持ちで、しばしその網戸の方に目を向けていた。

 

昼寝から目を覚ますと、そのような黄昏時であった。たっぷりと寝たことで頭はクリアとなり、その反面、姿勢が悪かったのか、肩甲骨の辺りに鈍い痛みを感じた。

 

それでも気分は悪くない。

 

長い昼寝をすると、時間を浪費したという罪悪感、あるいは有意義に過ごせたという充実感のどちらかが押し寄せてくるものだが、今回は後者に近い心持ちだった。

 

娘は同じソファの上で私の腕を掴んだまま眠っている。妻はまだ寝室で寝ているのだろう。私と娘も最初は寝室で寝ていたのだが、一度起きてリビングのソファまで辿り着いたのちに、ふたたびそこで二度寝をしていた。

 

家でばかり過ごすと昼寝が多くなる。今日は朝から皆でクッキーを作り、昼食後にそれを食べて昼寝を始めた。

 

私の連休も今や黄昏時と言える。日は既に沈み、空は赤みがかっている。何もせず家にばかりいたが、そのぶん家族と過ごせた。『何もしない』という最も贅沢な過ごし方を、思う存分に堪能できたのかもしれない。

 

首をひねり、ふたたび窓から外を眺める。さきほどと同じ光景が広がっているが、どうやら風は止んだようだ。対岸に見える網戸たちが、今では穏やかに凪いでいた。