いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

中国行きのスロウ・ボート

村上春樹の『中国行きのスロウ・ボート』を読了。
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今作は村上が最初に出した短編集らしい。村上作品は学生時代にそのほとんどを読み漁っていたのだが、今作はその不思議なタイトルもあり、手をつけずにいた。

 

しかし、少し前に『村上ソングス』を読み、そのタイトルがジャズ楽曲からとられたものだと知り、俄然読んでみたくなった。ということで今回購入し読むに至った。

 

村上の文章は歳を追うごとに、目に見えて“進化”してくので、今更初期の作品を読んで物足りなさを感じてしまわないかと、少し心配していた。しかし全くの杞憂であった。初期は初期なりの面白さを感じられたのだ。

 

書かれている文章に『攻めの姿勢』が感じられる。現在の村上の文章はどっしりと構えている印象を受けるが、この頃はまだ地位を確立する前だった、当然であろう。

 

そのため独特の比喩表現も数多く差し込まれ、自身の『味』をこれでもかと見せつけている。彼特有の飄々としたクールな文体はそのままだが、若手ならではのアグレッシブな一面も垣間見れて、読んでいて楽しかった。

 

読み終わって何が残る、というわけでもないのだが、まるで煙草を一服するかのように、文字を追っている間、静かに気持ちが落ち着いていくのを感じられるのだった(私は煙草を吸わないのであくまで想像だけれど)。

 

満足度の高い読書であった。ただこれで週末に買った本を早々に読み終えてしまった。手持の本を読み返そう。