レイモンド・チャンドラーの『大いなる眠り』を再読。
チャンドラー作品の中で私が最も好きな作品だ。訳者の村上は『ロング・グッドバイ』の方が上だと語るが、私はチャンドラー長篇の処女作であるこちらを推す。
私立探偵フィリップ・マーロウが初めて登場した作品、という思い入れも当然あるのだが、物語全体に勢いがあり、最初から最後まで駆け抜けるように読みきれる。
◯◯ベスト100冊といった文学界の世界的ランキングにも常連であり、世間的な人気、評価も高い作品だろう。
芸術家の第一作目には作者の全てが顕れるとよく言われているが、あながち間違いではないと私は考えている。
他のチャンドラー作品の感想でも書いてきたが、本作でも彼の魅惑的な文章は輝きを放っている。ただ本作に関して言えば、プロット、つまり語られる物語自体も、一級品と言えるほどに秀逸なものだと私には思える。
軸であるミステリ(謎、事件、推理)の部分もそうであるし、それに伴うヒューマンドラマも読み応えがある。登場するすべての人物が活き活きと描かれているし、物語の幕引きも、哀愁ある余韻を残していて実に見事だ。
チャンドラーの文章の魅力、主人公マーロウの魅力も十二分に堪能できることから、はじめてチャンドラー作品を手に取る人にもお勧めできる。(いきなり『ロング・グッドバイ』から入ってもいいのだが些か重厚すぎる)
なんにせよ、今回も読了後に気持ちの良いカタルシスをまた味わうことができた。物語に出てきたすべての要素が見事に収斂し、最後に昇華されるあの快感をだ。
彼の文章はなぞり読みをするだけでも楽しい。的確な描写、華麗な比喩、軽妙洒脱な会話。読書における全ての贅沢と愉しみがそこには含まれているのかもしれない。
さて、これですべてのチャンドラー作品の感想を書き終えてしまった。ただこれからも何度でも読み返すことだろう。そしてその度、彼の文章に嫉妬するに違いない。