いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

スペシャルステージ

我が家には『スペシャルステージ』という遊びがある。

 

娘が発案したものだ。いつも唐突に娘が言い出すのであった。「ぱぱ、すぺしゃるすてーじ、やろうよ!」と。

 

そんなわけで昨日もステージが開かれた。私は観客としてベッドの上に座り、娘の登場を待っている。「まだかなー、早く始まらないかなー」等と大きめに呟くと、部屋の外で待機している娘が嬉しそうにくすくすと笑う。

 

準備が整い、もったいぶった間をあけた後に、娘が顎を上げ行進するかのように入室してくる。私は待ってました!といわんばかりに、盛大な拍手と歓声を送る。

 

所定の位置につくと、娘は笑みを浮かべ、手を広げて恭しく礼をする。それを見て私の拍手は一層強くなる。

 

娘はスタンドに置かれた状態のギターに手をかける。弦に挟まれたピックを摘まみ上げ、それを使い六弦を荒々しく撫でる。じゃらーんという不揃いの音が鳴り響く。

 

娘はそれを二三繰り返す。最後は一弦ずつわざともたつかせるようにして音を奏でる。六弦が鳴り終わると再び拍手を送る。それがこのパートの終わりの合図なのだ。

 

次に娘はぬいぐるみを取り出す。それを低いテーブルの上に置き、その上にタオルを被せる。さっそく続いての演目である『マジック披露』が始まっているのだ。

 

私はできる限り目を見開き、タオルに熱視線を送る。娘がタオルを引くと、そこにあったぬいぐるみは消えている。私は歓声を送る。娘がひょこひょこと頭を下げる。

 

最後は観客との掛け合いがもたれるパートだ。今回娘はボールを準備してきていた。スペシャルステージ中、娘は無声映画の登場人物のように一切の声を出さない。そのため、ジェスチャーだけで次の催しが説明される。

 

ボールを高く投げ、互いにキャッチし合うといったゲームのようだ。はじめに娘が投げたボールを私がキャッチする。次は私が投げたボールを娘がキャッチする。それがしばし繰り返され、ゲームはなかなか盛り上った。

 

そのパートが終わると、娘はふたたびステージの真ん中へと戻り、三度拝礼する。おそらく彼女の頭の中では、たくさんの拍手と歓声が鳴り響いていることだろう。

 

そのようにして娘のスペシャルステージは終わる。どんな遊びなのかと聞かれれば、以上のような説明となる。ちなみに娘が終わった後には、私のステージが始まる。