いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

暑がりさんと寒がりさん

妻と私との間で激しい攻防が続いている。

 

我々の軍事境界線は『摂氏28度線』とでも表現できようか。つまりはエアコン設定温度に纏わる争いである。

 

ここまで聞くと、私が隙を見てはひたすらに温度を下げ、妻がそのたび温度を上げる画を想像される方も多いかもしれない。しかし現実は真逆である。我が家における暑がりさんは妻で、寒がりさんが私なのである。

 

妻は痩せているのに私よりも暑がりだ。冬などは『人間湯たんぽ』の如く熱を発するので、布団の中で暖をとるのに重宝している。冬はひっつきたがり、夏は露骨に離れたがる私に、妻はしばしば不平を漏らしている。

 

そんな妻は現在妊娠中だ。つまりは例年以上に熱を内包しているのである。昨日も、私が妻に隠れてエアコンの温度を上げると、気づいた妻は「こちとら妊婦よ!」と真っ向からその特権を主張してきた。人間ふたり分の圧を持って、多数決により主導権を握りにきたのである。

 

私は為す術もなく、黙って温度が下げられるのをただ見つめている他なかった。部屋が冷えてくる頃には、私は堪えきれなくなって寝室へと移動したのであった。

 

今後も夏が終わるまではこの攻防戦が続くであろう。ただ妻には先に述べた伝家の宝刀がある以上、私の勝算は皆無だ。私にできることといえば、妻の目を盗んではちまちまと温度を上げる、ささやかな抵抗くらいだろう。