いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

幽霊たち

ポール・オースターの『幽霊たち』を再読した。
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私が学生時代に初めて読んだオースター作品である。不思議な空気に満ち満ちた作品だ。頁数が少ないので折に触れては読み返しているが、何度読んでも、いつのまにか自分という存在が空中にぽかんと浮かんでいるような、奇妙な感覚に襲われる。

 

本作は『事件の起こらない探偵小説』や『犯人のいない推理小説』等と言われるが、ミステリだなんて思って読んではならない。間違ってミステリ好きが手に取ろうものなら、途中で投げ捨ててしまいかねない作品なのだ。

 

何も起こらない、そのことを愉しむ小説だといえる。

 

やはり初期の作品は、オースターの薄暗い内面が垣間見れるようで、読んでいて興味深い。ただ彼は作品を重ねるごとに文章が円熟し、物語としても洗練されている印象を持っているので、後期の作品を知った上で改めて読むと、些かの物足りなさを感じてしまうのも事実だ。

 

ただそういう意味では、オースターは作家として理想的な進化を続けている、とも言えるのだろう。

 

本作と他2作で構成される『ニューヨーク三部作』は言わずと知れたオースターの出世作である。彼の原点を確認するという意味でも、今後も読み返すことだろう。