いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ドラムのアニキ

アニキが我が家にご到着なすった。

 

先日購入したドラム式洗濯機である。私の在宅ワーク中に到着し、手際よい作業員によって配送設置された。

 

妻が説明書に目を通し、「まあとりあえず使ってみるか」とふたりでアニキの面前に立った。電源を入れ、「洗濯のみ」「洗濯+乾燥」「乾燥のみ」から選択する。あとは「スタート」を押す。ただこれだけである。

 

アニキは静かに動き出し、内包した洗濯物の量を確認する。すぐに時間が表示され、仕事を終わらせる見込みを私たちに教えてくれた。洗剤も自動投入なので、私たちはボタンを押す以外、他にすべきことは何もなかった。


アニキの仕事ぶりは実にスマートだった。

 

それまで使っていた旧式の縦型洗濯機と比べると、回転音も静かに感じる。私たちは好奇心からちょくちょくアニキの様子を覗きにいったのだが、彼は気負った様子も見せず、澄まし顔で淡々と自分の仕事をこなしていた。

 

宣言した時間通りにアニキは仕事を終えた。扉を開けると、洗濯物はほくほくに暖まっており、水気は皆無だった。これまでなら取り出してベランダに干して、次の洗濯を回し始めなければならなかったのだが、大量の洗濯物を一度に、そして乾燥までをも済ませてくれるのだ。

 

妻はさっそく自分の仕事量が大幅に減ったことを実感したようだった。少しの間だったが、手持ち無沙汰な時間というものを久しぶりに体感できたらしい。

 

私たちはその仕事っぷりに感嘆し、また貫禄を漂わせるその悠然とした佇まいに、畏敬の念を覚えていた。

 

私はその面前を通るたびに思わず会釈したい衝動に駆られた。妻は無意識のうちに敬語で話しかけていた。「どうぞ末永くよろしくお願いします」。そんな妻に対し、アニキは無言のままで少し微笑んだかのように見えた。

 

来た初日だと言うのに、アニキからは気後れのようなものは一切感じなかった。さも当然かのようにどっしりとそこに存在していた。「頼もしいったら、ありゃしない」。私と妻は声を揃え、幾度となくそう呟いていた。