いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

頼むから静かにしてくれ

レイモンド・カーヴァーの『頼むから静かにしてくれ』を読了した。翻訳は村上春樹で2冊で構成される。
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カーヴァーの最初の短編集である。私はその他の短編集は既読なので、順番で言うと逆の読み方となった。

 

初期のカーヴァー小説の特徴は「切れ味」にある。サッと物語が始まり、スパッと終わる。ありふれていて平凡な、そして比較的不幸な人々を題材にして描いている。

 

テーマや展開は決して斬新とは言えない。日常におけるスケッチ的な描写の連なりだけで、人々が纏う哀愁や切実さ、苦悩や悲しみなどを、ときに淡々と、ときにユーモラスに浮き上がらせている。

 

私はやっぱりカーヴァーは後期の深みある作品たちの方が好きなのだが、初期の作品も違う味わいを愉しむことができる。こんな題材でも書き方ひとつで小説になるんだと、新しい文学の形を提示してもらえているようだ。

 

またこのライブラリ本の特典でもあるが、各短篇ひとつひとつに対し、巻末で訳者村上の解説を読むことができる。作品自体よりも村上の解説が読みたくて、どんどんと読み進めてしまうときもあるくらいだった。

 

短編集は切れ切れに読んでも支障がないため、この本も他の本を読む合間に、短篇が読みたい気分のときを狙って、ちょこちょこと読み進めた。3ヶ月ほどの期間を跨いで、のっぺりとした読み方をして読み終えた。

 

これにてカーヴァーの短編集はすべて読み終わったことになる。大好きなわけではないが、なぜかたまに無性に読みたくなる作家、それが私にとってのカーヴァーだ。今後も手元にある6冊を折に触れては読み返すだろう。