伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』読了。
先日久しぶりに伊坂作品を読んで以来、その軽快な読み心地に魅力を感じたのでこの作品を続けて手に取った。
伊坂作品は、いわば漫画のようにさらさらと読むことができる。特にこの本は短編集であったこともあり、気軽に手に取っては、1篇ずつ気ままに読み進めた。
それぞれ1話完結の物語でありながら、各話の登場人物には関係性があり、最後の1篇でそれらが綺麗に回収される。つまりは伊坂お得意の連作短編集なのだ。
ただ収録されている話は、どれもありふれた日常の中で展開されていく。他の作品ででてくるような、泥棒やらの犯罪者は登場しない。それが新鮮であり、より読みやすさを高めてくれているように思えた。
ささやかな日常にあふれる小さな奇跡を切り取って、何気ない人生の面白さを描く手法は、私も好きだ。伊坂作品はどれを読んでもそのようなテーマを感じさせられるが、この作品は一段とそれを感じた。
それにしても、これほどライトな読み心地はどのように実現されているのだろう。それでいて心には適度なひっかかりをつくり、文章は人なつっこく親しみを抱きやすい。彼が人気作家になった所以は明白である。
それでもやはり、エンタメ系の小説を読むと、「自分の中に取り込んだ」というよりは「楽しく消費した」というような感覚を得る。もちろんそれも立派な価値なのだが、1つの作品としては軽いように感じてしまう。
それでもたまに手に取ってしまうのだから、自分の中にその欲求があるのだろう。くだらないと思いながらもバラエティ番組を見てしまうのに似ているかもしれない。