いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

最後の物たちの国で

ポール・オースター『最後の物たちの国で』。

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読むのは3回目か。刻々とゼロに向かい消滅していく世界を描いたディストピア小説だ。なぜか今読み返したい気分になった。少し弱気になってしまっているのかもしれない。

 

初期に書かれた作品だが、すでにオースター節は完成されている。文章にもキレがあり、読んでいて心地よい。同じ活字なのに、なぜ作者によってこんなにも読み心地が違うのだろうか。

 

物語は主人公の書いた手紙形式で語られていく。彼女は荒廃した世界に身を置き、元の世界に帰る希望も失っている。この手紙すら友人に届くかもわからない。それでも彼女は書き続ける。まるで何かに取り憑かれたかのように。

 

序盤でその世界の様子が描かれる。淡々とした説明調の文章のため、少しばかり退屈に感じる。しかしそれも終わり、物語が動き始めると、ページを捲る手に活気が宿るのであった。

 

改めて全体のプロット見ると、シンプルな構成である。後期の作品で見られるような複雑に入り組んだ要素はない。だからこそ、その主軸の展開には読み応えがなければならないわけだが、この作品にはその魅力が十分に具わっている。

 

ちなみにこの絶望的な世界の設定は、二十世紀にあった実話を下敷きにして作られているらしい。どうりで描写がリアルなわけだ。読んでいて映像が鮮明に浮かんでくるようだった。

 

やっぱりオースター作品は読み返しても面白い。肌に合っているという感覚だ。読書のリズムを取り戻すのに、彼の作品は最適である。