いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

卵を産めない郭公

ジョン・ニコルズ『卵を産めない郭公』読了。
f:id:pto6:20201120180632j:image
村上柴田翻訳堂シリーズの一冊だ。この前に二冊読んで面白かったので追加で買ったのだが、この作品も面白かった。やはりこのシリーズにハズレ無し。その認識を深めることとなった。

 

この本はいわゆる『青春小説』に分類されるものだ。また、ある程度の時代性も反映されているようで(この小説は1960年代に米国で書かれた)、全編通して文学作品特有の香しい空気感を十二分に堪能することができた。

 

巻末に収録された訳者らによる対談では、同じ青春小説であるサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』も持ち出され、類似点や相違点について語られていた。たしかに読んでいて感じた空気感はよく似ていた。ノスタルジーなセピア色の情景が浮かんでくるのである。

 

最後まで読んで、何かを得られるのかと問われれば、何も得られないと応える。しかし心の中には何らかの感情がぷかぷかと浮かんでいるのだ。村上も言っているように、青春小説とはただそれだけで充分なものなのかもしれない。

 

村上の翻訳もよかったのか、文体も身体に馴染んで読みやすかった。これといってクセはない文体なのだが、会話文が軽快で、それにより物語にスピード感が備わっていた。青春小説にはもってこいの文体ではなかろうか。

 

さて、同シリーズの作品は既にもう一冊購入している。そちらも読むのが楽しみだ。やはり好きな作家が選んで翻訳した本というのはハズレがない。今回は自分の名前を冠してシリーズ化しているものなので、尚更なのかもしれない。