あえて時代錯誤なことを息子に言ってみた。
「男の子なんだからあんま泣いたらダメだぞ」
もちろん0歳の息子は言葉がわかるはずもない。そばで聞いている娘のツッコミ待ちの台詞である。案の定、娘が目をまん丸にして「ぱぱ、ぱぱ、ちがうよ、ちがう」と割り込んでくる。
「だめじゃないよ、◯◯くんは、あかちゃんだから、おとこのこでも、ないてもいいんだよ」
うんうんそうだよね、と思いつつも、初めて知ったというふうな表情で娘の話を聞いていた。娘は真剣な面持ちで私の正面に座ると、歳下の子を優しく諭すような口調で話を続けた。
「あかちゃんは、ことばがわからないから、しゃべれないから、ないてるんだよ。なくしかないの。だからないていいんだよ、わかった?」
私が予想していたよりも、娘は息子のことを、赤ちゃんのことを、しっかりと理解してくれているようだった。思わず感心する。私は真摯な眼差しを向けている娘をまっすぐに見つめ返し、「うん、わかった」と大きく頷いた。
あまりに心得ている大人びた娘に対し、ではこれはどうだろうかと、ある質問が頭に浮かんだ。そのままの流れで娘に聞いてみる。
「じゃあ、パパも泣いてもいいのかな?」
「パパはだめ。おとこのひとはつよいから、ないたらだめなんだよ。おんなのこはいいけど」
どこまでも心得ている娘であった。その考えも時代錯誤だぞと思いながらも、なんだか身が引き締まる思いがした。強くか・・がんばろう。