いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

いなごの日/クール・ミリオン

ナサニエル・ウエスト『いなごの日/クール・ミリオン』を読了。柴田元幸による傑作選だ。
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村上柴田翻訳堂シリーズ。読むのはこれで四作目だが、やはりこのシリーズにハズレなしだ。彼らの審美眼への信頼は深まるばかりである。

 

エストは今回初めて読んだ作家だった。解説を読むと、いろいろと不遇の作家だったらしい。しかし実力があるのはこの本を読んだだけでもわかった。真に良いものというのは、いつか必ず日の目を見るものなのかもしれない。

 

この作者に対して感銘を受けたのは、作品によって大きく文体が変えられている点だ。それゆえ「作者固有の声」というものが掴むことができない。それによるマイナス面も当然あるのだとは思うが、作品に合わせてここまで器用に書き方を変えられることに、驚きをおぼえた。

 

当時のアメリカにおける時代性を反映させた、いわゆる風刺的な要素も物語には取り入れられている。社会の底に堆積した塵芥を拾い上げ、シニカルな形で提供してみせているのだ。

 

扱うテーマは暗く深刻なものばかりなのだが、先に述べた絶妙なる語り口のおかげで、すらすらと読み進めていくことができるのであった。

 

まだまだ私の知らない優れた作家はいっぱいいる。この本を読んで、改めて世界の広さを痛感させられた。このシリーズについては、村上と柴田によって訳された作品はすべて読み終えた。残りの作品も、また読むことを検討したい。