いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

憧れのセリフを頂戴した。

不意打ちだった。

 

夕食中、家族団らんをしていた際に、思いがけず、娘があの憧れのセリフを口にしたのだ。

 

「わたし…パパとけっこんしたい」

 

その瞬間、眼前の背景に花びらが舞った。これが映画のワンシーンであったなら、なんて陳腐な演出だろうと思ったに違いない。しかし実際人が舞い上がると目の前に花びらが舞うのだ。

 

とにかくそのとき、宙に舞うピンクの花びらを背景に、少し恥ずかしげに首を埋めた娘のハニカミ顔が、私の網膜に鮮明に焼き付いたのだ。

 

私が感動に包まれ「ハァァァァ…」となっていると、一緒にその場面に出くわした妻も感慨深げに呟いた。「ほんとに現実でも言うんだね。初めて聞いたわ」。うんうんうん、と激しく頷く。娘を持つ全父親が憧れているセリフだ。

 

私は我ながら勿体ぶった笑顔を浮かべ、しばし目をつむりその幸福感をしみじみと味わった。そしてゆっくりと目をあけると、娘を抱き寄せ、これまた長らくシミュレーションしていたセリフを、練習通り娘の耳元で優しく呟いた。

 

「…ありがとう。…でもごめんね。パパは…ママともう結婚しているから…無理なんだよ…」

 

立派な父親として、しかるべき返答ができたように思う。しっかりと理性は保てた。自分を褒めてあげたい。この思い出は一生大切にしよう。