いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

海辺のカフカ

村上春樹の『海辺のカフカ』を再読した。

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読み返すのは大学以来だ。村上春樹Tシャツを買ったことで思わず読み返したくなった。実家にはハードカバーがあるが、今回は文庫本で買って読んだ。

 

この作品は私が村上春樹作品にのめり込むきっかけとなった作品だ。それまでも彼の作品はいくつか読んでいたが、この長編を夢中で読んだことにより、彼の作品を全て読もうと心に決めた。

 

実家にある本は、大学時代のサークルの先輩からもらったものだ。文学好きだったその風変わりな先輩の家に遊びに行った際、手に取ったその本を「面白いぞ。欲しいなら持って帰れよ」と言って譲ってくれた。BOOKOFFの中古シールが貼られていたその本が、私の人生感を大きく変えることとなる。

 

読み返しをする小説には、物語の結末等は思い出せないが、断片的なイメージだけは鮮明に頭に残っているという作品がある。この作品もそうである。物語の展開などは朧げなのに、図書館の中の静謐な空気感と、幻想的な森の中を彷徨い歩くシーンだけは、すぐに映像として頭の中に立ち上がってきた。

 

読み返してみると、やはり面白い作品だった。これぞ村上春樹の真骨頂といえるだろう。上巻はとにかく読み進む手が止まらなくなり、どんどんと物語に引き込まれていく。下巻では思いもやらぬ非現実的な展開に圧倒されながらも、その結末を見届けようと、息を呑みながらも読み進めていくのだ。

 

この本を読み返していて、これまでに抱いたことのなかった感情が村上に対して芽生えた。実は彼ほどに文学とエンタメを高次元で作品に織り込んめている作家はいないのではないか、ということである。

 

もちろん『わかりやすいオチ』というものをエンタメと定義するならばそれには当てはまらないわけだが、随所に散りばめた謎によって読者を最後まで牽引する物語としての面白さと、読んでいるだけで喜びを味わえるほどにリズムが整えられた文体。その両方を兼ね備えているのは、改めて物凄いことだ。

 

この味わいはなかなか他の作者では味わえない。またしばらく、村上作品を連続して読むことになりそうだ。ただ持っているほとんどの本が実家に置いてあるのが問題だ。母に頼んで送ってもらおうかな。