いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

月と六ペンス

サマセット・モームの『月と六ペンス』を読了。
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「この作者は他の作品も読まなきゃならない」。この作品を半分ほど読み終えた私は、そんな思いに駆られ、すぐさま同じ訳者により手掛けられた2作品を注文した。モーム作品を読むのは初めてだったが、すぐさま彼の虜となったわけだ。

 

私とこの本との出会いは小さな書店であった。その中のことさら小さな一角に、海外文庫コーナーが設けられていた。そこに平積みされていたこの一冊。今読まなければならないという思いが、なぜか胸に沸き上がってきたのである。

 

読み始めからその平明な文体に好感を持つ。比喩や表現もウィットに富んでおり、人物の描き方も巧みで、物語にも惹き込まれていく。その総合力の高さに、私はまたひとり好きな作家に巡り会えたのだということを悟るにいたった。

 

調べてみると、やはり偉大なる作家であった。おそらくはこれまでもその名を見たことがあっただろう。それでも私の印象には残っていなかった。この作品名も目にした記憶はあるものの、このときまでは手に取ろうという気が起きなかった。

 

やはり作品との出会いは巡り合わせだ。どのタイミングでその本を読むかがとても重要になってくる。かくして私はモームと出会った。最良のタイミングであったのだろう。私の中で福音が鳴り響いた。

 

また訳者である金原瑞人も初めて読んだが、素晴らしい翻訳だと思った。こちらも著名な訳者であるようで、日本にはまだまだ凄い翻訳家がいるのだなと、自分の世界の狭量さを痛感させられた。

 

さて、この作品は画家のゴーギャンの生涯をヒントに書かれた物語らしい。興味を惹かれたので彼を題材にした映画も観てみた。確かに人物像に共通点はあるが、人生においては相違点も多い。あくまで今作はフィクションなのだという理解を深めた。

 

あらゆることを犠牲にしてでも自身の芸術を追い求める芸術家の姿に、人生観を揺さぶられた。本物のアーティストとはやはりそれくらいの覚悟を持って取り組める人種のことをいうのだろうか。

 

モームについて調べていると、彼が同性愛者であることも知った。少しだけ合点がいく。端々での女性に対する辛辣な描写に妙に体重が乗っていたからだ。おそらくは彼の価値観が色濃く投影されているのだろう。ただそれによって登場する女性たちは皆とても生き生きとしているのであった。女性の描き方は、彼のひとつの武器だとまで言えると思う。

 

モームの魅力についてはもっともっと語りたいが、既に購入した2冊もあるので、そのときまでとっておきたい。ディケンズといい、イギリスの作家は、ハマると連続して読みたくなる。しばらくはモーム作品にどっぷりと身を浸からせてみたいと思う。