いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

サナギ

剥げかけの皮がお尻部分に縮れてくっついている。

 

かごを持ち上げるとその振動に驚いたのか身体をゆさゆさと揺らした。かごを静かに置きじっくりと観察していると、身体の置き所を整えるため定期的にもぞもぞと動くことがわかった。土に埋もれた上半身を支柱とし、時計回りにぐるぐるお尻を動かす。

 

ベランダで育てていたカブトムシの幼虫が順調にサナギになりはじめた。育てていたといってもこちらはただ土の中にいれ見守っていただけなので、彼らが勝手に育ってくれたわけなのだけど。

 

ネットで調べていた通り、彼らはサナギになる前に身体周りの土を固め、自らで部屋をつくった。蛹室というらしい。かごの中には六匹の幼虫がいたが、外からは五匹ぶんの蛹室が確認できた。きっともう一匹も、かごのど真ん中あたりで生きてくれているだろうと信じている。

 

蛹室を壊すと成長不全を起こすようなので最近では繊細にかごに触れ観察を続けている。いまのところ二匹は完全なるサナギになっていて、その他はサナギの前段階である前蛹という状態に見受けられる。

 

これまで私はサナギ状態のカブトムシを実際には見たことがなかった。勝手なイメージでサナギはカチンコチンでその状態ではまったく動かないものだと思っていた。しかし実際には前述のように身体をもぞもぞと動かす。触りはしないものの、思いのほかしなやかな身体をしているようなのであった。

 

最近では一緒に育てている娘よりも私のほうが夢中になって見に行っている。気がつくと成虫になったカブトムシの画像なんかも調べ、そのカッコいい造形に、うっとりといつまでも眺めているような状態になっている。

 

やはりカブトムシとクワガタは男にとっては永遠の憧れのようだ。よく今までこの気持ちを忘れていたものだなと、不思議に思っているくらいである。子どものおかげで、人生をまた一から体験させてもらっている気分だ。

 

自分が子供の頃にしたくてもできなかったことを、我が子たちにはできる限りやらせてあげよう。そのお裾分けによって、私の人生も豊かになりそうだ。