トマス・ハーディの『呪われた腕』を読了した。
読む本に困ったときには未読の『村上柴田翻訳堂シリーズ』を買ってしまう。ただ、この本を読み始めたくらいに、文庫化を待っていた作品たちが5冊もリリースされてしまったわけだが。
それはさておき、やはりこのシリーズにハズレなしで、今作も素晴らしい作品であった。今作は村上と柴田が翻訳したものではないが、ふたりが廃版からの復刻を強く望んでいた作品ということだけあり、内容も折り紙付きといえる。
ハーディの作品を読むのは初めてだったが、村上たちのハーディ評は以前から読んでおり、情景描写に秀でた作者だと認識していた。
さぞ耽美な自然描写が続くのだろうと思って読んだのだが、想像していたものとは違っていた。美文的な描写を長々と連ねるわけではなく、的確な描写を効果的に入れることで、冗長な印象は与えずに、鮮やかに情景を立ち上がらせている。
また短編小説のなかにおける時間経過、場面切り替えにおいても、思い切りの良い書き方をしている。巻末の解説では近代ではあまり見られない書き方らしいのだが、個人的には短編としては好きな形だと感じた。短いなりに壮大なテーマが扱いうる。
ハーディの作品は教科書の題材にもなっているらしい。確かに物語としても読み応えがあり、文章や表現も洗練されていて、王道の文学作品という趣がある。またいい作家を知ることができて嬉しく思う。
また次読む本に困った際には『村上柴田翻訳堂』作品をあたろう。今のところ5作品読んで打率10割なので信頼度は増すばかりだ。とはいえしばらくは、先日待望の文庫版が発売した新刊達を読み漁ろう。