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文学パパが綴るかけがえのない日常

熱帯

森見登美彦の『熱帯』を読了した。
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数年前に発売されて以来読みたいと思っていた作品だが、なんとか文庫化されるまで我慢することができた。本屋で新刊文庫が平積みされているのを見つけたときは青天の霹靂で、もともと買おうとしていた作品を差し置いて、手に取り購入した。

 

ただ読み終えた感想としては、正直期待値が大きすぎたと言わざるを得ない。直木賞候補となったくらいの作品なので、駄作だなんて言うつもりはないのだが、私はどちらかというと芥川賞、つまりは純文学寄りの作品が好きなので、今作は私に合わなかった、というのが公平な見方なのだと思う。

 

ただ導入部分を読んでいるときのワクワク感はとても良かった。大好きな“森見節”も初期作品と比べれば控えめではあったものの、相変わらず読んでいて楽しい文章を書いてくれるなと思った。

 

しかし中盤以降のファンタジー色の強い展開には、少々ついていくのがしんどかった。本作は『高校生直木賞』を受賞しているらしいが、たしかに高校生の頃に読めば今よりは楽しめたのかもしれない。

 

それでも、本作で試みた複雑怪奇な構成に対する作者の心意気は素晴らしいと思う。途中からはその構成をなんとか結末へと繋げることに全神経をつかったのか、“森見節”が鳴りを潜め凡庸な文章となっていたのが残念だった。が、何年かかっても一つの作品としてまとめ上げたのは称賛されるべきだろう。

 

話題となり、作者の新しい代表作のような扱いを受けていたので、私が勝手に期待値を高めたのが悪かった。個人的な意見ではあるが、著者は今作のような壮大なテーマより、こじんまりとした世界を愉快に膨らませた作品の方が、相性が良いように思っている。もちろん本人もそんなことは重々自覚した上で、今作で新たな境地に挑んだのだろうが。

 

とはいえ、森見登美彦は初期作品から読み続けている、好きな作者のひとりに違いはないので、次回作がでたらまた手に取り読んでみたいと思っている。