いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

トリニティ

窪美澄の『トリニティ』を読了した。

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面白かった。窪美澄の作品はほとんど読んでいるのだが、その中でも本作は上位の読み応えだった。彼女の新たな代表作とも言えるのではないだろうか。

 

女性作家の作品はあまり性に合わないのだが、彼女の作品はなぜかすんなりと肌に馴染む。女性にしか書けない生き生きとした女性キャラクターたちが登場する。それが最大の魅力である。

 

今作でも、三人の女性と、その生涯を辿ろうとするひとりの女性が登場する。それぞれにキャラクターが立っていて、自然と容姿が想像できた。

 

改めて、女性の生き方は複雑である。男のように何も考えずには生きられない。少なくとも、男が悩むこととはまた別次元での悩みや生きづらさがある。

 

この物語の舞台となる時代と今とでは、また少し環境が変わっているのかもしれないが、女性にのみ妊娠出産する能力が備わっているという点が変わらない以上、社会で生きる上での男女が、まったく同じ条件で生活できるわけがないのだ。

 

男の私からしたら、ある点においては女性が羨ましいと思うことも多いのだが、それと同じように(もしくはそれ以上に)男性と比べてやり切れなさを感じている女性は多いのだろうと想像する。

 

序盤こそ少し物語に入り込むのに時間を要したが、中盤以降、三人の女性たちの若かった時代を振り返る場面からは、ページを捲る手にも熱を帯びた。

 

文章は相変わらず読みやすく、たおやかながらも芯のある表現で、読んでいて心地よさを感じる。

 

初期作品では必ず登場し、絶対的な武器として使われていた官能的描写がなくとも問題なく読ませられている。作家としてまた一皮剥けた印象を受けた。

 

窪美澄、今後の作品も楽しみである。以降もコンスタントに作品を出しているようなので、文庫化されるたびに手に取り読んでみようと思っている。