いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

人間の絆

サマセット・モームの『人間の絆』を読了した。

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同シリーズ、同訳者でモームの新訳本がコンスタントに出版されている。喜ばしいことだ。過去作は全て購読しており、今回も本屋で見かけて、迷いもなくレジへと持っていった。

 

これまで読んだ三作品のうちだと『月と六ペンス』が一番だった。私がモームにハマったきっかけとなった本だし、読んでいて感銘を受ける部分(物語としても、文章表現としても)が多々あった。

 

しかし今回読んだ『人間の絆』は、それに迫るほど多くの感銘を受けた。上下巻あるその物語の壮大さから言えば、結末におけるカタルシスは『月と六ペンス』以上であった。

 

平凡な主人公の半生が綴られる。少なくとも主人公に特別な才能や劇的な運命は備わっていない。それでも、そんなありふれた人物の人生だからこそ、多くの人が感情移入でき、共感できるのではないか。

 

頭では愚かだとわかりながらも、恋心に打ち勝てず、悪女に利用されたあげく不幸になる場面では、自分のことのように胸が締め付けられた。

 

主人公には多くの不幸が降りかかるが、周りの人にも助けられながら、なんとか立ち上がる。苦しい生活の中でも、ふとした瞬間に、人との絆や自然の美しさに、ささやかな幸福を感じられるのであった。

 

最後に主人公が下した決断にも、とても清らかで暖かい気持ちにさせられた。人生って、やっぱりそうだよね。そんな親近感を抱き、同時にこんな物語をいつか書いてみたいとも思わされた。

 

いまやモームは大好きな作家のひとりとなった。次なる新訳が出されることも、心から期待している。