いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ワインズバーグ、オハイオ

シャーウッド・アンダーソン著『ワインズバーグ、オハイオ』を読了した。著者の作品は初めて読む。
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ヘミングウェイにも影響を与えた作品だということで以前から興味を持っていた。読みたい気持ちが高まったので、年末に購入しゆっくりと読んでいた。

 

いぶし銀な魅力をもった作品である。定期的に新訳版が出され、人々に長く読み継がれているのもわかる。短篇ながら、無理なオチをつけるのでなく、焦点をあてた人物を描ききった後で余韻を残しつつもさらりと終わる、幕の降ろし方が私好みであった。

 

また、端々で見られる的確で要を得た表現には、なんども心を掴まれた。派手さはないが、いつも手堅く、要所となる箇所に最適な石を配置しているような印象を受けた。

 

巻末解説に書かれていたが、たしかにレイモンド・カーヴァー等の短篇の名手たちにも影響を与えているように思えた。百年前に書かれた作品とは思えないほど、人物や情景の描写、文学小説としての構成の仕方に、現代と大きな違いは無いように感じた。

 

一方で、間違いなく良作ではあるものの、誰もが知りうる名作、とまでは評価されていないのにも納得ができた。しみじみと良さを実感する深みのある作品ではあるものの、やはり少し地味でインパクトには欠ける。名作に不可欠な華が足りない、と表現してもよいかもしれない。

 

きっと今後も、コアな純文学好きに細々と読み継がれていくのだろうと思う。もちろんそれも素晴らしいことである。私もまだまだ完全にこの作品を味わい尽くせたという実感まではないので、本棚の見える位置に置き、いつか機運が高まったら、ふたたび本書を手にして、静謐な心持ちで読書を楽しみたいと思っている。

 

最後に、作家を志す者のひとりとして、思わずメモしてしまった表現をここに書き記しておきたい。この文章を読んで、とても感じ入るところがあった。

 

「作家になるんだったら、言葉をもてあそぶのはやめなければならないわ」(中略)「もっと準備が整うまで、書くことを一切やめたほうがいいかもしれない。いまはまず生きるべき時期なのよ。(中略)単なる言葉の商人になっては駄目。学ぶべきは人々が何を考えているかであって、人々が何を言うかじゃないの」