いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

バースデー・ディナー

地下鉄を降り地上に上がった時からヒリヒリとした。

 

久しぶりに心斎橋を訪れたのだった。相変わらず威勢のいい若者たちの街だ。東京でいう原宿のようなイメージか。とにかく私たち子供連れがこの街に場違いであったのは間違いない。

 

居心地の悪さを感じながらも早足で目的地を目指した。今夜は妻のバースデーディナー。ふたり時代から通っている個室フレンチのお店を予約していた。

 

迷わなかったため、30分早めに店に着いてしまった。小雨が降ってきたので、近くの店に雨宿りがてら入店する。しかしすぐに肩身が狭くなって出てしまった。その他の店も若者たちが占領していて、結局予約した店の前まで戻ってしまった。

 

オープン前の店のドアを開け、少し早めに入店させてほしい旨を伝える。すると快く受け入れていただき、個室に案内されてほっと息をついた。

 

座ってからもしばらくはソワソワして過ごした。やはり子供を連れてまで来るところではなかったか。心斎橋の街を歩いたことで、すっかり心が萎縮してしまっていた。

 

しかし一品目のコース料理を口に入れた瞬間、心に渦巻いていた靄が一掃され脳裏に青空が広がった。めちゃくちゃ美味しい。数年ぶりに訪れたが、感動の味はまったく衰えてはいなかった。

 

普段は少食の娘も美味しいと唸りながらバクついていた。食いしん坊の息子も同様である。本当に美味しいものは性別、年齢、関係ない。美味しいは正義。心のモヤモヤや後悔の兆しすらも一瞬にして無に帰してくれるのだ。スペシャルコースを一滴残らず堪能した。

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美味しさで心が満たされるときは会話も弾む。妻とは懐かしい思い出話から神秘的な運命の話まで。なんだか心の中まで暖かくなれた。

 

幸福な満腹感に包まれながらに店を後にすると、ふたたび心斎橋という現実の夜道を早足で歩いた。ただ行きで見つけていた美味しそうなフルーツ大福のお店に立ち寄り、いちご大福とキウイ大福をお土産にした。

 

お風呂上がりにそれを食す娘と妻は、またもや至福の表情を浮かべていた。私も一口ずつもらったが、たしかにフルーツが瑞瑞しく、豊潤な甘さが最高の後味を口にもたらしてくれた。

 

期待した通り『食べる幸福』で満たされた一日だった。これにてGWの前半戦終了。明日は箸休め的に幼稚園とお仕事を少々。ほどよいテンポだなと思う。