いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

おかえり横道世之介

吉田修一の『おかえり横道世之介』を読了した。

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前作『横道世之介』は、吉田修一作品の中ではもちろん、私の読んできた青春小説のカテゴリの中でもトップレベルに大好きな作品であった。私自身が主人公の世之介と同じ大学生の時に本書を読んだこともあり、より思い出深い作品として記憶に刻まれている。

 

この続編が単行本として発売されたときは、驚きとともに喜びが押し寄せた。文庫化の報せを知るとすぐにスケジューラに備忘で登録し、Amazonにて予約注文を済ませた。ここ最近では久しく味わっていないくらいのはしゃぎようである。

 

また前作の映像化作品もBlu-rayでもっているので、文庫本を読み終わる前に、そちらも久しぶりに鑑賞した。この映像作品は珍しく原作好きからも多くの賞賛があがっている。私も大好きだ。キャストが絶妙で、原作の世界観を見事に再現してくれている。

 

さて、そんなふうに自分の中の世之介フィーバーを再来させて読んだ本作。結論からいえば、やっぱりとても楽しかった。みんなから愛される世之介と再会ができ、物語の中で彼と一年間ふたたび並走できたことが、なんとも幸せな気持ちだった。

 

世之介は相変わらずのんびり生きており、人生の方はあまりうまくいっていない。それでも毎日多くの人に囲まれており、なんだかとても楽しそうだ。

 

人生のダメな時期であっても、その時期だからこその出会いがあり、人生の煌めきがある。これがもしダメな時期が訪れていなければ、あの人ともこの人とも会っていない。そう思うと、落ちぶれ万歳!そんなふうにさえ思えてしまうのであった。

 

私も前職で気が沈んでいたからこそ、今の新しい仕事に出会えたし、以前は感じたこともなかった充実感も得られている。人生は本当にいろんなことが起こるが、どんな時でもその時その時を誠実に生きてさえいれば、何かしら得られるものがあるのかもしれない。

 

なんにせよ、この小説を読んでいると、人生のあらゆる時期を肯定したくなる、暖かい気持ちになれるのであった。読み応えもあって読み心地も最高だ。やっぱり続編も大好きな作品であった。

 

巻末の対談によると、横道世之介シリーズは、現在新聞等で「完結編」の連載がされており、作者によると「少年編」を書く構想もあるそうだ。この続編が出たこと自体が嬉しい驚きだったのだが、まだまだ世之介に会えるだなんて。その時を今から楽しみにしたい。