いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

人間

又吉直樹の『人間』を読了した。
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又吉の小説を読むのはこれで三冊目だ。特に作品が好きなわけではないのだが、やはり話題性もあるし、又吉という芸人には一定の興味をもっているので、ついつい手にとり読んでしまう。

 

本作を読む前に一応Amazonレビューを覗いたが、否定的な声も多かったので期待値は低めに設定した。とはいえ、あきらかに文学を読み慣れていないレビュアーの投稿も多かったので、話半分に思いながら。


読んでみてどうだったか。普通に楽しめた。特に第三章まではかなり楽しくて、そこまでであったら大絶賛と言っても良いほどの内容であった。

 

又吉はとにかく、人間に渦巻くどす黒い感情を言語化するのがうまい。負の感情ほど活き活きと描写し、手触りを感じられるくらいに実態へと近づける。日常的に感じている苛立ちや、見聞きするふざけた暴論への切り返しが見事に言語化され、そうそう、こんなふうに言い返したかったんだと、何度も快感を味わった。

 

ただ最後の章だけはトーンダウンしてしまった。もちろん最後まで読めばこの章を設けた意図はわかるし、作品としてまとめ上げる上では必要だとは思うが、前の三章と比べると読んでいて楽しくない。前半との対比をわざと作っていることは百も承知であるが、それでも如何せん、退屈すぎて熱気が冷めてしまった。


当然、私が作者のレベルに追いついていないのが原因だとは思うが、それでも個人的な意見としては残念に思えた。第三章までの勢いのまま幕が降ろされる作品もいつか読んでみたい。それが素直な感想である。

 

とはいえ、又吉の書く文章との相性は悪くはないので、次回作も文庫化されたらまた手に取り読むことだろう。まだこれで三作目。徐々に表現の幅が広がっている印象を受けるので、これからの作品も楽しみだ。