いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

涅槃

垣根涼介の『涅槃』上下巻を読了した。

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かつてはエンタメ小説で名のある賞を総なめしていた垣根涼介歴史小説家に転身して幾ばくか。私はこれまでその全ての作品を読んできた。

 

最新作となる本作も、やはり面白く私好みであった。宇喜多直家という、大河ドラマで名だけは聞いたことがあるような人物が主人公だったが、すぐにその人物像に惚れ込み、物語にのめり込むことができた。

 

歴史上では、裏切りや暗殺を繰り返す極悪非道な人物として語られることが多い宇喜多直家だが、この作品では、そうではない新たな人物像を作り上げている。

 

また最後には、そのように史実で語られるようになった理由づけまでされており(『歴史は、常に勝者の都合によって捏造され、喧伝される』)、物語として納得感があった。

 

また主人公が、徹底的な合理主義者で、武家の棟梁らしからぬ物の見方や判断を下すのも、個人的に共感を寄せられる要因のひとつであった。

 

また、読む人によっては好みが分かれるだろうページを割いて描かれる情交の描写も、私としては興味深く読め、主人公の輪郭を縁取るにあたり、物語における必然性を感じられた。

 

久々に読んだ超大作だったが、たまに中弛みはありながらも、総じては最後までとても楽しんで読むことができた。やはりこの作家が書く歴史小説は面白い、と再確認。次の新作が出れば、また逃さずに読みたい。