いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

痴者の食卓

西村賢太の『痴者の食卓』を読了した。
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引き続き西村作品を出版順に読んでいる。相変わらずタイトルに独特の味わいがあるなと感じる。

 

本作も私小説の連作短篇であったので、これまで読んだ時点からの続きを期待して読んだのだが、時系列がやや戻り、元恋人との同棲中におけるトラブル話がメインであった。

 

それらの話も安定して面白く、著者の真骨頂ではあるのだが、底辺から這い上がり芥川賞作家になるまでの道程をみたいと思っている私にしてみれば、お預けを喰らったような感覚を覚え、逸る気持ちを駆り立てられた。


そういった意味では、もしかすると西村作品はこのように続けざまで読むに向いていないのかもしれない。年に1冊くらいのペースで刊行されていた新刊を、つど楽しみに読むのに最適だったのだろう。作者が亡くなった今となっては、それも叶わぬ読み方なのだが。

 

今作の話で、勝手知ったる主人公への理解がさらに深まった印象を受けた。とはいうものの、貫多のクズっぷりについてはもう充分にわかったので、願うならば次なる展開を見せて貰えたなら嬉しく思う。

 

というわけなので、西村作品の新鮮さを取り戻すためにも、ここで一度、別の作者の長篇作品を手に取り読んでみようと考えている。彼の物語はまたその後で。