いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

無垢の博物館

オルハン・パムクの『無垢の博物館』を読了した。
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ここ最近、西村賢太私小説ばかりを読んでいたので、いったん感覚をフラットに戻すためにも長篇の海外小説を読んでみたくなったのだ。

 

西村の書くモノトーンな文章(それが氏の文章の魅力である)と比べると、あまりに色彩豊かな表現に溢れていて、序盤は平衡感覚を失うほどであった。ノーベル文学賞作家の筆力を、新鮮な気持ちで堪能できた。

 

物語は、ひとりの裕福な男が、最初は火遊び感覚であった若い娘にどんどんとめり込み、人生を崩壊させながらも、生涯を通して一途に愛し続けるといった内容である。純愛小説のようにも読めるのだが、主人公の常軌を逸したサイコ的行動も相まって、ジャンルに分類しがたい独特の印象を受けとることとなる。

 

それでもパムクの書く、美文調な語りがあまりに上品なため、美しい物語の様相で綺麗に縁取られていくのであった。それこそ西村の文章でこの物語を書いたのであれば、奇人変人ストーカー野郎の話として仕上げられることだろう。

 

分厚い二冊に渡る長篇であり、穏やかに物語は進行していくので、途中、わずかながらに飽きを感じてしまった。それでも主人公の結末(けっして幸福にはなれないだろうとの予感は持ちつつも)を知りたくて、最後までページを捲らされてしまうのであった。タイトルにもなっている無垢の博物館とは何物かも知れ、見事に円が閉じられた印象を受けた。

 

ちなみに、作中の舞台でもあるトルコについては、なかなか面倒くさそうな国なのだな、という感想を持った。現在はどうなっているのかは知らないが、若者達にとっては、さぞかし窮屈な文化なのであろうなぁ。