いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ガムボトルの差し入れ

仕事中、買い物から帰った妻が入室してきた。

 

すっとガムボトルが渡される。手に持ったのは学生のとに以来ではないか。訳を理解せぬままに受け取り、妻の意図を探りながらにお礼を口にした。

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妻はあまり多くを語らず、部屋を後にした。私は手に持ったガムボトルを見つめ、思考を巡らせる。前日などにガムに纏わる話や文脈はなかった。私はコンサルで鍛えた頭脳を駆使し、ひとつの結論を導き出した。

 

「ふむ。私の口が臭いということか」

 

私は自らで導き出した強靭なロジックに基づく結論に、静かに打ちひしがれた。これ以外に理由があろうか。いやない。もはやこれは仮説ではなくファクトなのだろう。なぜだ。毎食欠かさず歯磨きもして、ジェットウォッシャーまでしているというのに…!

 

それでもなんとか気持ちを持ち直し、午前中残りの仕事をやり遂げた。せっかくなのでガムを噛む。その甘みから程よいリフレッシュ感が得られた。思わず頬が緩むが、これは口臭を打ち消すための謂わば義務的行為なのだと思い出し、ふたたび気持ちを引き締めた。

 

午後、喋る機会があったので、恐る恐る妻にガムを差し入れた意図を尋ねてみた。恐怖の答え合わせだ。

 

「仕事中、パパが口さみしいかなぁと思って。それにガム噛んでると集中力も高まるって言うでしょ」

 

私の結論は見事に否定された。それなのになぜだろう。気持ちは晴れ晴れとしていた。私の先の予想を実はねと伝えると、妻はケラケラと笑っていた。

 

快い気持ちになった私は、午後からは2粒ずつガムを口に放った。この調子だとすぐに無くなりそうだ。そうなれば、また妻に同じものを買ってきてもらおう。