昨日娘のことで印象に残っていることが2つある。
1つ目は夕食後に食べたアイスクリームだ。
夕食の食器を洗うと、家族三人で近くのコンビニへ行った。日中天気が悪く一日中家の中に居たので、買い物がてら外の空気をすいたくなったのだ。
娘は私の抱っこひもの中に入っていた。妻はカゴの中にテンポ良く商品を入れていく。
「私、アイス食べるけど、パパも食べる?」
正直なところ、そこまで食べたい気分だったわけではないが、私はなんとなく妻と味違いのアイスをカゴの中へと入れた。
その後、家に帰り娘を抱っこひもから降ろした。結局はおやつ2袋と食パン、アイス2個が収穫物だった。
妻と話してアイスはお風呂前に食べてしまおうということになった。そのため私と妻は食卓の椅子に座り、コンビニ袋を広げはじめた。
すると、娘が急にこちらへと駆けつけてきた。
「あいす?」
娘は目を輝かせながら、私と妻の顔を交互に確認する。そんな娘をみて、私はいろんな意味で驚いてしまった。
まずは、さっきアイスを買ったことを知っていたことについて。おそらくは抱っこひもの中で私と妻の会話を聞き、カゴに入れられるアイスを見ていたのであろう。(コンビニでは特に反応しなかったのにな・・・)
次に、アイスという対象を認識し、それを指して「あいす」だと発言できたことについて。いつのまに「あいす」という言葉を使いこなすまでになっていたのか、と私は驚いてしまった。
最後は、アイスに対してこれほど目を輝かせていることについて。何回か娘の口に入れてあげた記憶はあったけれど、そこまで好きになっていたなんて。娘の表情からは、他のどの食べ物よりも好きだというオーラを感じる。
その証拠に、娘の問いに対し私が「そうだよ」と答えると、娘は興奮を抑えきれないように鼻息を荒くさせながら、自分の椅子を自らで押して食卓の横へと設置した。(娘の椅子は大人用の椅子にバンボを固定して使っている。)
なかなか椅子に座ってくれない夕食のときとは大違いである。
娘は逸る気持ちに後押しされるように、せかせかと椅子へとよじ登り、自ら固定バンドと備え付けのミニテーブルを設置した。なんともお利口さんな所作である。
食べる準備を早々に済ませた娘は、らんらんに輝く瞳を向けながら、私に言った。
「あいす、ちょーらい」
私と妻は顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。娘に食べさせる気はなかったけど、ここまでされたら食べさせる他ないだろう。
妻は私のアイス(MOWバニラ)の商品表示を確認した。悪い添加物は入っていないようだ。
食べさせてOKのお許しがでた。そのことを感じ取ったのか、娘の表情は一層明るさを増した。
蓋をあける様子をうきうきしながら娘は見つめていた。露わになったアイスを娘の方へと向けると、両手を差し出し「ぱぱ」と言った。まずはパパ食べていいよ、ということらしい。なかなか礼儀をわきまえているではないか。
私は一口食べた。そして大げさに「おいし~い」と娘に言ってみせた。
見ていた娘は期待に満ちた表情を浮かべた。そしてそわそわしながら「○○たん」と、自分を指さし、自らの名前を言った。次は私の番、ということなのだろう。アイスを求めて口が既に半開きだった。
私は少しだけもったいつけながらも、木のスプーンで娘の口へとアイスを運んだ。
娘は一瞬その冷たさにびくっとしながらも、そしゃくと共に次第に頬を緩ませていった。ゴクリとアイスを飲み込むと、幸福感がはなやかに顔全体へと広がっていく。
それからは、アイスがなくなるまで「ぱぱ」、「○○たん」の繰り返しだった。
どれだけ食べても娘はアイスを求めた。すぐお腹がいっぱいになって椅子から降りたがる夕食時とは大違いだ。
お腹を壊すことを少し心配しながらも、嬉しそうな顔を見ると私はなかなか止めることができなかった。
どんどん飲み込むのも早くなり、たまに「○○たん」の番が「ぱぱ」を飛ばしてしまうこともあった。結局、アイスの半分を娘がぺろりと平らげてしまった。
食べている最中、娘は本当に幸せそうで、お利口さんだった。
私たちも面白がっていろいろと質問を投げかけてみたが、どれに対してもいつも以上にご機嫌に返事を返してきた。(「アイス食べたい人?」→「はーい」などなど)
私はそんな幸せそうな娘を見ながら、将来大きくなってから、仕事帰りにアイスを買って帰宅したら、妻と娘は大喜びしてくれるんだろうな、と想像を巡らせてしまった。
ご機嫌をとれるアイテムが妻と娘で同じなのは、私としてはとてもありがたいことだ。娘もアイスが大好きだということは、心のノートにしっかりと書き留めておこうと思う。
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2つ目に印象に残っていることは、夜寝る前に娘と長々とおしゃべりをしたことだ。
昨日は和室で私と娘の二人だけで寝た。少し体調を崩している妻は大事を取って寝室でひとり寝てもらったのだ。
リビングと和室の電気を全て消すと、部屋は空気清浄機のライトだけが点っていた。
そんな薄暗闇の中、娘は私の腹によじ登ると、うつぶせに寝そべり私の顔をみつめながら、おしゃべりをはじめた。
おしゃべりと言っても、しゃべれる単語は限られている。しかし聞き取れるワードをならべていくと、どうやら今日あった出来事を娘なりに振り返っているようだった。
「じぃじとモシモシしたね」
「あいす食べたね」
「あんぱんまんみたね」
私はたどたどしい娘の言葉に対して、ひとつひとつ正しい日本語にして復唱していった。
娘は自分の言ったことを理解してもらえて、とても嬉しそうだった。なんどもなんども同じ事を繰り返し口にした。私もそれにとことん付き合ってあげた。
「あんまんまん、すき」
「かかーし、すき」
「ばいきんまん、すき」
後半からは、娘は好きなものを言い始めた。どうやらいつのまにかバイキンマンも好きになったらしい。彼女の好きなものランキングは日々変動しているようだ。
↓娘の好きなものランキング
「ぱぱ、すき?」
私は勢いに乗じて、そんな質問を娘にしてみた。大きくなったら出来ない、今だからこそできる質問である。
それまで軽快に返事をしていた娘が急に黙る。私は心配になり、もう一度尋ねた。
「ぱぱのこと、すき?」
娘からの返答はない。不安な気持ちが私の中に押し寄せてくる。
しかし次の瞬間、娘は含みのある笑みを顔に浮かべ、私をぎゅっと抱きしめてきた。
そして「ぢゅっ」と、鼻と鼻をくっつけるいつもチュウをしてくれたのだった。
身悶えしたのは言うまでも無い。娘でなければ恋に落ちていることであろう。
その後、私たちは娘が眠りにつくまで、長々とおしゃべりを続けた。
「あんまんまん、すき」
「かかーし、すき」
「ばいきんまん、すき」
いつもであれば嫉妬してしまうそんな娘の言葉たちも、今日はなんだか余裕をもって聞くことができた。
静かで真っ暗な和室の中に、娘と私の声だけがいつまでも響いていた。