いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

夜はこれから

おそかったじゃない、と娘が言った。

 

昨日は残業したのだ。私はお風呂にいる妻から濡れた娘を受け取り、タオルで身体を拭いてあげていた。

 

「ごめん。でもお仕事がんばったんだよ」
「えー、ぱぱ、すごいじゃない」

 

娘はそう言うと子犬のような笑顔を浮かべ、生乾きの手で私の頭を撫でてくれた。嬉しくなった私は、タオル越しに娘を抱きしめてしまう。

 

「でも、おそかったから、すこししかあそべないよ?」

 

顔を上げた娘の口は尖っている。私はパジャマを着せてあげながら、思わず笑ってしまった。昨日娘に言われたことを思い出したからだ。昨夜、定時で帰ってきたとき、開口一番娘にこう言われた。

 

「ぱぱ、はやかったじゃない、いっぱいあそべるよ!」

 

娘の髪を乾かし終わると、私たちは遅めの夕食をとった。妻と娘も昼食の時間が遅かったらしく、先にシャワーを浴びたとのことだった。

 

私は早々に食べ終わると、いそいでシャワーを浴びた。出てくると、ちょうど娘が食べ終わったところだった。

 

「ぱぱ、あそぼ!」

 

思わず笑みがこぼれた。私はその場で四つん這いになり奇妙な顔をつくると、逃げる娘を追いかけはじめた。